出産後の診断

2020年5月、妻が2人目を出産。男の子だった。

当時はコロナ禍真っただ中のため、夫であっても出産への立会いはかなわなかった。その代わり、出産後に医師から電話を受け、妻と息子の様子を聞くことができた。

医師は、「出血多量につき急遽帝王切開に切り替え、子宮全摘出となりましたが、母子ともに元気です」と言い、緋山さんは胸をなでおろした。しかし、安心したのもつかの間、医師の話は続く。

「ただ、出産直後から『家に帰らなきゃ』など、よく分からないことをつぶやいています。手術後にまれにみられるせん妄状態かもしれないので様子を見ます」という。

妻が出産した病院は総合病院だったため、念のため他の科と連携しながら、脳のMRIや知能指数検査を行ってもらうことになった。

赤ちゃんの腕をやさしくなでる母親
写真=iStock.com/kokouu
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1週間後に検査結果を聞きに行くと、若年性認知症と診断される。脳のMRIで異常が見られ、知能指数66という低い値が出た。さまざまな検査を行ったところ、アルツハイマー型や脳血管型などの主な認知症タイプには当てはまらない特殊な認知症であることがわかった。

緋山さんは、想像外の結果に戸惑いが隠せなかった。

「出産後の妻は、見た感じは何も変わりません。意識もあるし会話もできました。正直『どこが病気なんだ?』と思いました。一方で、介護のことなんてほぼ何も知らない私は、『子育てどうするの? 自分が全部やるの? いやそれは無理だろ?』というのが最初の感想でした」

医師は病院のソーシャルワーカーを紹介してくれたが、緋山さんは「ソーシャルワーカー?」と、聞き慣れない肩書にまた戸惑った。

ソーシャルワーカーは、子どもは早ければ3カ月から保育園に預けられることや、住んでいる地域の自治体の育児サポート体制を詳しく教えてくれた。妻の介護については、包括支援センターのスタッフに相談した。

「ソーシャルワーカーさんや包括支援センターのスタッフさんによると、40代の若年性認知症介護自体がそもそも珍しく、そこに生まれたばかりの子どもがいるというのはさらに珍しいようです。子育て支援センターの方からもものすごく心配されています。それもそうですよね。私自身、いきなりこんなにハードモードな人生になるなんて思ってもみませんでした」