離婚後、一人息子を育てながら、同居しつつ老父母を介護していた女性。特にアルツハイマー型認知症の母親は「通帳や財布を盗まれた」と妄想が激しくケアは困難を極めた。スーパーへ行けばストックがあるのに毎回ホウレン草を買い、腐らせた。そうした中、息子は通っていた専門学校を不登校になり悩みは尽きない。芸能関係の仕事をしながら、帰宅後、あまりの臭さに涙をこぼしながら糞便の処理をするなど女性は孤軍奮闘した――。
前編のあらすじ】芸能関係の仕事に従事する馬場寧々さん(50代・独身)は芸能界に憧れ、大学2年生の頃から俳優スクールに通い、大卒後も役者やモデル、リポーターなどとして働くように。31歳の頃に友人の紹介で夫になる人と出会い、結婚。しかし責任感も思いやりもない、冷たい人だったため、離婚。その3年後、介護が必要な状態になった91歳の父親と83歳の母親との同居をスタートした。

同居後の生活

芸能関係の仕事に従事する馬場寧々さん(50代・独身)は数年前に夫と離婚して、一人息子(15歳)を養育中

だが、介護が必要な状態になった老父母と同居することを決めた。91歳と83歳の両親は、娘と孫との同居をとても喜んでいた。

だが同居早々、父親が馬場さんを悩ませた。同居する前から母親は、「お父さんが夜中、私の部屋に来て、『胸が苦しい』と訴えるから気持ちが悪い。いつも起こされて、ゆっくり寝られない」と嘆いていた。馬場さんは同居するまでは、「へぇ〜、そうなんだ」と、ひとごとだったが、同居した途端、父親が「胸が苦しい」と訴える相手は馬場さんに変わった。芸能関係の仕事を調整しつつ、昼夜関係なく父親を病院に連れて行かなければならなくなり、気が休まらないどころか、眠ることもままならない。

両手を心臓に当てている男性
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父親は、2つの病院を受診し、肺ガン検診、心電図、血液検査、尿検査などを受けたが、特に胸が苦しくなる原因は見つからない。

「どこも悪くないみたいだよ」と、父親に言っても、夜中になると、「胸が苦しい」と悲壮感を漂わせて馬場さんが寝ている部屋に来る。その度に、「病院に連れて行ってくれ!」と言われるが、さすがに馬場さんも寝不足のため、「もう調べるとこないから!」と声を荒らげてしまう。

そんなある日、内科の医師から、「不定愁訴かもしれませんね。お年寄りにはよくあります。腰が痛いと言う方もいますよ」と言われる。医師は、有名な精神科宛てに紹介状を書いてくれた。

そこは認知症外来もあり、100人近く待ちがあると言われている人気の病院だったが、紹介状のおかげですぐに診てもらえた。診断の結果、父親の病名は、「身体表現性障害」。

この障害は、ストレスが身体の症状となって表れてしまっている病気のこと。身体をいくら調べてもどこも悪くないのに、本人にとっては症状があり、健康不安が尽きない障害だ。こころが作り出した身体の症状で、実際に身体症状として苦痛を感じることもあれば、病気に対する不安が募り、精神的な苦痛が強くなることもある。

馬場さんは、「まさにこれだ!」と思った。父親は抗不安薬を処方されると、「この薬はよく効くわ。胸がす〜っとするわ」と、大満足。それ以来「胸が苦しい」と言わなくなった。