歯科医の女性とその夫は、女性の両親と二世帯住宅をつくり、そこに住む決断をした。両親は土地代の3分の2を負担した。幸せな時間と空間を共有できるはずだったが、母娘の断絶により二世帯の関係は修復不可能なものに。両親は遺産相続を駆け引き材料にして娘夫婦を懐柔しようとするが――。
前編のあらすじ】関東在住の上地美栗さん(仮名・現在40代・既婚)の両親は「交際0日婚」。父親は育児や教育に全くの無関心である一方、母親は教育虐待を続けた。上地さんは小学生の頃から塾に通わされ、テストの点が悪いと怒鳴られ、夕食抜きに。進路も母親の言いなりで、異性との交際にも口を出された。それでも上地さんは友人と遊ぶよりも、家で母親といることが好きだった。思春期を迎えても、反抗期はなかった。しかし上地さんが大学を卒業し、社会人になり、結婚・出産すると、少しずつ状況に変化が。上地家の“家庭のタブー”はいつ、どのように生じたのか。タブーのはびこる家庭という密室から、彼女はどのように逃れたのか――。

二世帯住宅同居案がもちあがった

歯科医の上地美栗さん(仮名・現在40代・既婚)は長女(0歳)の育児休暇中に、商社で働く1歳下の夫と「自分たちの家を持ちたいね」と話し合い、3つの案を立てた。

① 戸建て住宅を購入して家族で暮らす
② 上地さんの両親が住む家の敷地に自分たちの家を建てて暮らす
③ 上地さんの実家を売却したお金で、新しい土地を購入して二世帯住宅を建て、上地さんの両親と同居する

上地さんは小さい頃から母親から教育虐待を受けつらい思いを何度もさせられてきた一方、「母親を好き」という気持ちも強かった。

「この3つの案を考えていた当時の私(39歳)は母からの影響を強く受けており、いわゆるアダルトチルドレンだったと思います。なので、どちらかと言えば同居した方が育児も楽だし、楽しいかなと思っていました」

この頃は夫も、上地さんと上地さんの母親は仲が良いと思っていたため、育児のフォローなども得られるだろうと、同居に賛成。夫の両親は、息子が決めたことに口出ししない人たちだった。

一方、当時の母親(71歳)は、実家の隣に建築された施設からの騒音が気になってイライラしていた。そのため上地さん夫婦が、「家を購入するか、もしくは二世帯住宅を考えている」と伝えたところ、すぐさま母親は父親(当時72歳)に対して、「(今住んでいるこの家の)土地を売って二世帯住宅を建てるのか、(あなた)1人でこの家に残るのか決めて! 私は美栗と一緒に住む!」と迫った。

しかし、父親はなかなか首を縦に振らない。親(上地さんの祖父)から相続した土地を簡単に手放すことはできないという理由だったが、3日後、土地を売ることを決断。そのことを伝えるために、父親は上地さん夫婦を呼び出した。

父親は、「二世帯住宅を皆が求めているようだし、土地は売ることにした。今不動産業者を当たっている。可能な限り高値で売る。それを元手に良い土地があれば探す。ハウスメーカーは、美栗たちで決めていい」と話した。

最後に父親が、「出発の日だから、寿司でも取ろう!」と提案すると、上地さんは、楽しい未来を想像し、胸を躍らせた。

お寿司をとって宴会
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