上地家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。上地家の場合、両親が“交際0日婚”で相手のことを深く知らないうちに結婚に至ったこと。約2年後に長女をもうけているが、父親が長女をかわいがることはなく、子育てに無関心。それなのにその3年後に2人目をもうけていることは、「短絡的思考」と言わざるをえない。

父親は娘たちだけでなく、母親にも無関心だったのだろう。上地さんいわく、“外面だけは良い母親”は、家庭に対する夫の無関心さを世間に露呈しないために、娘たちの教育に力を入れ始めたのかもしれない。母親が自分の家庭の内情や、等身大の家族を社会から隠すようにしていたことで、上地家は社会から「断絶・孤立」していた。さらに、「子供の頃は、友達と遊ぶより家で母親といるほうが好きだった」と話す上地さん自身、母親との共依存関係に陥ることで、社会から「断絶・孤立」していたとも言えよう。

そして「羞恥心」に至っては、上地さんはこう話す。

「両親は、その場その場で思ったことを口にしますし、熟慮熟考することがありません。恥ずかしい親だと思いますし、恥ずかしい以上に自分の身内だと思いたくないと思っています」

居間でけんかする夫婦
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冷戦の果てに

上地さん夫婦は、父親から5項目を宣言された後、相続について調べたり、専門家に相談したりして知識を得て対策を考えた。その結果、「(両親、もしくは自分たち夫婦が)固定資産税全てを負担しても、そのことが遺産相続には影響を与えない」こと、「遺産相続は親の自由意志であり、周りは何も言えないもの」ということがわかった。

「つまり、固定資産税を私たちが負担していたのは、後々、姉とのもめ事を可能な限り避けたほうがよいという(両親と私たちの友好関係に基づく)“気持ち”で口約束していたものでしたが、妊婦である私に対する心ない発言などで“気持ち”を踏みにじったのは母であり、それに迎合した父自身でした」

上地さん夫婦が話し合いの末に出した結論は以下の通りだ。

① 親族が持つ土地に家屋を建てている場合、契約書がなくても土地の賃貸契約が結ばれているとみなされる。そのため、土地が父親のものであっても、上地さん家族が追い出されることはない。

②さらに、「土地賃貸借契約」を父親と結べば、万が一父親に土地を売却されても契約がそのまま業者に引き継がれるため、上地さん家族は家を出る必要がない。そのため、費用の3分の2を出した父親の土地を借りているという前提で「土地賃貸借契約」を結び、上地さんが土地の賃貸料を支払う。

③ 「土地賃貸借契約」の月の支払額は、子どもたちの教育資金、及び、遺産相続で上地さんが相続する遺留分 を考慮した額なら支払う。荷物は置いておいても構わない。

④ 別居後2年を前提に、別居継続や父親の土地を買い取るなど、今後どうしていくかを判断する。

⑤ 子どもたちとの面会可否は、今後の経過で考えるが、現状の言動を考えると距離を置く。

⑥ 遺言は、本人の思った通りに書いてもらって構わない。

上地さんの夫は上記内容を父親に伝えた。

父親は、「あんたたちの思い通りになるような遺言は絶対に書かない。それが嫌なら今まで通りの関係に戻れ」などと、遺産をネタに 上地さんと母親の仲直りを強要したが、夫から理性的に拒否されたことに驚いた様子だったという。

上地さんは、「毒親たちが出て行ってくれたら、やっと精神的に安定した生活ができる。将来父親の土地を購入できるように貯金をしよう」と考えるなど、前向きになっていた。

そんな矢先、大どんでん返しが待っていた。