アルツハイマー型認知症

一方母親は、同居したての頃、料理をしてくれていたが、一緒に買い物に行くと冷蔵庫の中にまだストックがあるのに、必ずホウレン草とハマグリを買う。「まだ冷蔵庫にたくさんあったよ!」と止めると、「は? 私は買ったことないわ。またおかしなこと言うて! 私を陥れるんやから!」と無視。

冷蔵庫の中では、調理されずに腐ってどろどろに液状化したホウレン草が増えていく。

「母は、ハマグリのお吸い物と、ホウレン草のおひたしが好きで、作りたいって頭の中では思ってるんです。けど、作るのを忘れちゃうんでしょうね……」

ほうれん草のおひたし
写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです

馬場さんは母親を、「早く認知症外来に連れて行かないといけない」と思うが、本当のことを言ったら拒絶されるのが関の山。そこで、「80歳過ぎたら無料で脳の検査ができるらしいで!」と嘘をついて連れて行き、その日のうちにアルツハイマー型認知症と診断された。

そのため母親もデイサービスを契約するが、自ら「今日は休む」と電話をかけてしまい、両親ともなかなか行ってくれない。馬場さんは一番大変だった頃を、こう振り返る。

「父は『胸が苦しい』と言って毎晩夜中に起こしてくる。母はアルツハイマー型認知症のせいで、『財布がない! 返せ!』と夜中に騒ぐ。おかげで私は、ひどいときは3日もまともに眠れずに仕事に行ったこともあります。同居してから3〜4年経つくらいまでが一番大変でした……」

困り果てた馬場さんはついに、『デイケアに行かないなら同居は解消する! 息子と出て行く!』と宣言。すると両親は渋々行き始めた。

父親は、週5でデイサービスに通い、後の2日は訪問医療・看護・介護を入れ、自宅にいても寝たきりにならないように努めた。母親は、週5でデイサービスに通い、週1アルツハイマー型認知症の診察、精神病院の中にある認知症専門のデイサービスに通い、残りの1日は訪問医療・看護に来てもらった。

やがて同居から1年後、母親は膵臓がんと診断された。自覚症状は全くなく、血液検査とCTで判明。高齢のため、詳細な検査もできず、ステージ何かは不明。医師も本人も治療は望まず、特に薬も飲んでいない。