自分を犠牲にしない

「介護にやりがいなんてない」と話す馬場さん。特につらかったのは、両親の便や尿の後始末だったという。

「2022年は、両親共にポータブルトイレになり、家中臭くてたまりませんでした。洗うのは私ですし、仕事からクタクタで帰宅したあと、臭さに涙を流しながら、ポータブルトイレを洗っていました。最近は介護職の息子に助けてもらえるようになりましたが、泊まりの仕事もあるので、基本は私です。家族が一番つらいのは、便の処理だと痛感します」

さまざまなポータブルトイレが陳列されている
写真=iStock.com/sergeyryzhov
※写真はイメージです

つらさや苦しさは、友人やケアマネジャーに話すことで解消した。

「昔から、自分は悩みを抱え込むと駄目になるとわかっていたので、人に話して聞いてもらうことで、ストレスを発散していました。介護のためにランチや飲み会を断りたくなかったので、極力、デイサービスで夕飯食べてきてもらったり、息子に休んでもらったりして、友人との仲を閉ざさないようにしました」

介護で眠れなくても仕事も続け、趣味のボウリングや洋裁教室も絶対に辞めなかった。

「介護離職する人は年間10万人以上いるそうですが、私は、もし朝起きて親が死んでいても、多分誰かに葬儀の手配を頼み、仕事を優先します。私は絶対に仕事を辞める気はありません。仕事を辞めたら、自分の老後の経済的な心配につながるからです。でもそれだけでありません。社会と接点がないと、私は孤独感で押しつぶされそうになります。私は仕事をしている時が一番心が落ち着き、『自分はここで生きてるんだ!』という気持ちになれるからです」

父親は早朝に亡くなり、死亡確認の後、馬場さんは仕事に行き、帰宅後に葬儀の打ち合わせをした。

「今、介護離職を考えている人にお伝えしたいのは、決して1人で抱え込まず、ケアマネジャーさんに相談してほしいということです。自分の生活を犠牲にすることは、普通の親なら望んでいないと思います。長男や嫁、子どもが親の面倒を見なければならない時代は終わりました。これからの介護は、介護する家族が自分の生活を犠牲にしないことが大切だと思います」

経済的な理由や、親が嫌がるため施設に入れられないケースも少なくない。しかし子どもには子どもの人生があり、親の余命よりも長い人生が残っている。日本は“家族のことは家族で”という考え方が根深いが、働き盛りの子ども世代が離職して親の介護をするのと、親の介護はプロに任せて社会で働き続けるのとでは、経済社会としてはどちらが有益か。施設や人員、法などの一刻も早い整備を願う。

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