時任家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。

「父は、流されるように生きてきた人で、物事を深く考えない性格。金魚が暑そうだからと冷蔵庫に入れて全滅させていました。赤字続きだった店を十年以上経営し続けて、最後は自己破産。現在は生活保護受給中です。一方、母は自分が一番大切で、子供のために自分のやりたいことを我慢することはできない人。父と同じく流されるように生きてきて、物事を深く考えないタイプ。何かにつけて人のせいにする癖があり、低所得者を特集したニュースなどを見て、政府の悪口を言っています」

時任さんが語るように、おそらく両親はずっと、「短絡的思考」で生きてきた。行きずりで妊娠・出産に至った両親は、またたく間に不仲になり、父親は店で生活し、自宅に近寄らない。子育てに追われ、社会から「孤立」した母親は、宗教にのめり込むあまり、自分の両親から借りたお金を寄付してしまい、両親やきょうだいたちとまで「断絶」。そして時任さん姉妹は、不仲な両親や宗教にのめり込む母親、貧乏な暮らしをする自分たちを「恥ずかしい」と感じていた。

「両親からかわいがってもらった記憶はほとんどありません。私たちが幼い頃の母は、子供をかわいがることもできないほど心に余裕がなかったように感じます。母は昔から何か1つのことに執着するタイプの人間で、私たちが子供の頃は教団でした。父は端っから子供をかわいがるタイプの人間ではなく、父が大切にしていたのは自分の店とお客さんでした。宗教のことは恥ずかしさうんぬんのレベルではなく、知った人が離れてしまうのでは……という恐怖が強く、今でも親友や夫にさえ話していません」

現在73歳の父親とは疎遠になっており、時任さんが結婚したことも知らない。63歳になった母親は妹と暮らしており、時任さんは定期的に子供を連れて会いに行っている。母親は、時任さんが結婚を決めたとき、「まさか結婚するなんて!」と驚いた。妊娠・出産したときも、「子供を作るなんて思わなかった!」と、イベントの度に驚いた。もしかしたら母親は、自分が幼少期の娘にしてきたことを悔いていて、それでも時任さんが家庭を持ち、子供をもうけたことを驚いたのかもしれない。

母親の指を握る赤ちゃん
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

「母のことは、『下手くそな生き方をする人だな』と反面教師のように見ています。少なくとも現在は、私たち姉妹や子供たちへ愛情を示してくれているので、愛してくれる人を失うべきではないと判断し、交流を続けています。いまだに自己中だなと思うことはたくさんありますが、不満は妹とシェアして前向きに対処を考えています」

時任さんは母親を反面教師にして、2人の男児を育てている。

「できるだけ子供の遊びに付き合ったり、近所にお友達をつくってあげようと思って私もママ友を作ったり、子供が好きそうな場所に出かけたり……。自分が子供の頃、母や教団の大人に合わせた退屈な空間で過ごすことが多かったので、子供の時間を大切にしたいと思っています。母のことはかなり意識して、母にはやってもらえなかった“子供中心”の生活を送るように心がけています。現在は、自分たちが小学生の頃、毎日家に親がいなくて寂しい思いをしていたので、絶対に自分の子供たちには同じ思いはさせまいと、長男の小学校入学に合わせて看護師の仕事を退職する準備をしています」

次の3月で、時任さんは奨学金の返済が終わる。

近々妹が結婚するため、母親をどうするか姉妹で頭を悩ませている。幼少期から力を合わせて苦難を乗り越えてきた2人なら、この先も大丈夫だろう。

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