ホワイトハウスとクレムリン双方から信頼が厚いロビイストが語ること
戦争は、どちちの側からカメラを向けるかによって、全く違う姿に見えます。太平洋戦争において、日本の従軍記者の撮った記録映画と、アメリカの従軍記者の撮った記録映画は、同じ戦闘を扱っても全く別物でした。情報を一元的に絞るのではなく、両方の情報を見て判断すべきです。
ロシア国内の報道といえば国民に現実を知らせず、プロパガンダばかり垂れ流していると思われがちですが、それは違います。ロシアのテレビも西側の情報を流しているし、この戦争に懐疑的な報道もあります。
前回の連載では、最近の西側の報道が、ウクライナの劣勢とアメリカの政策転換を伝え始めたことに触れました。今回は、ロシア側の報道を見てみましょう。
ロシアの政府系テレビ局・第1チャンネルが不定期に放映する政治討論番組「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」は、ウクライナへの侵攻開始以降、クレムリンが諸外国へシグナルを送る機能を果たしています。
6月6日(月)の22時55分から76分間放映された番組の冒頭34分は、とても情報的な価値の高い内容でした。出演したのは、ロシア高等経済大学のドミトリー・スースロフ教授、アメリカ共和党系シンクタンク「ナショナル・インタレストのためのセンター」のドミトリー・サイムズ所長、対外諜報庁中将で前戦略研究センター所長、元対外諜報庁分析局長のレオニード・レシェトニコフ氏の3人です。
サイムズ氏は1947年生まれで、父親はソ連の反体制派を支援する弁護士、母親は人権活動家です。両親は、70年代初頭にソ連からアメリカに亡命しました。モスクワ国立大学歴史学部を卒業したサイムズ氏も両親とともにアメリカに亡命し、アメリカの国籍をもっています。知識人が用いるロシア語を完璧に操ることができ、ホワイトハウスとクレムリン双方から信頼が厚く、重要なロビイストです。
ロシア政府あるいはアメリカ政府の考えを知悉している3人の目には、この戦争がどう映っているか。また、アメリカの内情をどう分析しているか。3人の発言のうち、注目すべき部分をいくつかピックアップしてみます。