ウクライナ戦争はどのように終結するのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「1953年の朝鮮戦争の停戦が参考になる。バイデン政権は、ウクライナが韓国のように栄え、ロシアが北朝鮮のように孤立することを狙っているようだ」という――。(連載第13回)
2022年6月10日、カリフォルニア州ロサンゼルス港の戦艦USSアイオワ博物館で演説をするジョー・バイデン米大統領。
写真=AFP/時事通信フォト
2022年6月10日、カリフォルニア州ロサンゼルス港の戦艦USSアイオワ博物館で演説をするジョー・バイデン米大統領。

マリウポリ陥落後、欧米のウクライナ報道が変わった

5月17日、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所に立て籠もっていたウクライナ政府軍とアゾフ連隊の戦闘員がロシア軍に投降し、2439人が捕虜になりました。マリウポリは黒海へ続くアゾフ海に面した要衝であり、このマリウポリの陥落を機に、西側メディアの報道の様相が変わりました。

2日後の19日、「ニューヨーク・タイムズ」に注目すべき社説が載りました。「バイデン大統領はウクライナに対して、ロシアと全面衝突はできないことや、兵器や資金の提供に限界があることを伝えるべきだ」と書いたのです。

民主党寄りでバイデン大統領の政策を後押ししている同紙の、しかも社説です。アメリカ国民にとっては、国内のインフレのほうが深刻な問題で、支援には限りがあるとウクライナに伝える時期に来ている、と与党系の新聞が主張したことは注目すべきことです。

西側メディアは、アメリカとウクライナの齟齬そご、ウクライナの苦戦やアメリカの政策転換を報じるようになったのです。

米紙「ウクライナはアメリカと情報共有したくない」

アメリカとウクライナの齟齬として、ウクライナの作戦や機密事項がアメリカに共有されていないということが報道されるようになりました。アメリカの国家情報長官のアブリル・ヘインズ氏は5月の上院の公聴会で、「われわれはおそらくウクライナよりもロシアに関する知見を多く持っている」と発言しています。

6月8日の「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された、著名な軍事評論家であるジュリアン・バーンズ氏の分析記事にも同様の話が載っています。

アメリカの情報機関はウクライナの作戦について思うほど情報を持っておらず、現役・元職員によれば、ロシアの軍隊、作戦計画、その成功や失敗についてはるかに優れたイメージを持っているとのことである。

(中略)

米政府関係者によると、ウクライナ政府は作戦計画について機密事項の説明や詳細をほとんど与えず、ウクライナ政府関係者もアメリカ人にすべてを話したわけではないことを認めている。

(中略)

米国はウクライナに対し、ロシア軍の位置情報をほぼリアルタイムで定期的に提供しており、ウクライナ側は作戦や攻撃の計画、防衛の強化にその情報を利用している。

しかし、(米軍制服組トップの)マーク・ミリー統合参謀本部議長やロイド・オースティン国防長官とのハイレベルな会話でも、ウクライナ当局は戦略目標だけを話し、詳細な作戦計画を話さない。ウクライナの秘密主義により、米軍や情報当局はウクライナで活動する他の国々、ウクライナ人との訓練セッション、ゼレンスキー氏の公的コメントからできることを学ぼうとせざるを得ないと、米政府関係者は述べている。

ウクライナは、国民に対しても、親しいパートナーに対しても、強いというイメージを植え付けたいと考えていると、当局者は述べている。ウクライナ政府は、ウクライナ軍の士気の弱まりを示唆するような、あるいは勝てないかもしれないという印象を与えるような情報を共有したくないのだ。要するに、ウクライナ政府関係者は、米国や他の西側諸国のパートナーに武器の供給を遅らせるような情報を提供したくないのである。

アメリカは、ロシアのような敵対国に対する情報は詳細に集めています。しかし友好国であるウクライナに対してはそうではないため、政府から情報を直接得られなくても、非合法な手段で情報を集めようとはしません。