7月8日、安倍晋三元首相が街頭演説中に殺害された。作家で元外交官の佐藤優さんは「日米同盟の強化とともに、日米同盟の枠内で日本の独立を確保することを真摯に考え、そのためにロシアとの関係改善を図っていた。それを読み取ったロシアの政治エリートは、安倍氏を尊敬していた」という――。
2013年9月5日、ストレルナで開催されたG20首脳会議の傍らで会談するロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領と日本の安倍晋三首相(当時)。
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2013年9月5日、ストレルナで開催されたG20首脳会議の傍らで会談するロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領と日本の安倍晋三首相(当時)。

感情を表さないプーチンが、気持ちをあらわにした弔電

ロシアのプーチン大統領が、安倍晋三元首相の遺族に弔電を送りました。私が翻訳した文面は、以下の通りです。

尊敬する安倍洋子様
尊敬する安倍昭恵様

あなたの御子息で、夫である安倍晋三氏の御逝去に対して深甚ある弔意を表明いたします。

犯罪者の手によって、日本政府を長期間率いてロ日国家間の善隣関係の発展に多くの業績を残した傑出した政治家の命が奪われました。私は晋三と定期的に接触していました。そこでは安倍氏の素晴らしい個人的ならびに専門家的資質が開花していました。この素晴らしい人物についての記憶は、彼を知る全ての人の心に永遠に残るでしょう。

尊敬の気持ちを込めて ウラジーミル・プーチン

プーチン大統領は、感情を文章にして表すことがまれです。このような弔電を打つことは珍しく、安倍氏に対して抱く心の底からの親愛の情が、率直に表明されていると感じます。

インテリジェンス機関の元締めからの弔意全文

ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記の弔意も、興味深い内容です。旧KGB(ソ連国家保安委員会)出身のパトルシェフ氏は、国内を担当する秘密警察FSB(連邦保安庁)長官を務めた経歴もあり、現在はロシアのインテリジェンス機関の元締めです。

【RP=東京】ロシア安全保障会議ウェブサイトは8日、安倍晋三元首相死去に関連した、パトルシェフ同会議書記のお悔やみの言葉を掲載した。同書記は、「われわれは彼を、ロシアとの関係の発展のために多くのことを行い、両国民間の相互理解の顕著な改善の実現を心から願い、課された目標の達成のために労力、時間や自身の健康を惜しまなかった、優れた政治家として記憶にとどめるだろう」との見方を示した。

お悔やみの全文は次の通り。

われわれは、安倍晋三元日本首相の早すぎる死去に関連して、深いお悔やみの言葉を述べる。
安倍氏は常に、輝かしく、また権威ある日本の政治家の一人であり、自国や国外において当然の敬意を受けてきた。
われわれは彼を、ロシアとの関係の発展のために多くのことを行い、両国民間の相互理解の顕著な改善の実現を心から願い、課された目標の達成のために労力、時間や自身の健康を惜しまなかった、優れた政治家として記憶にとどめるだろう。
われわれは、安倍氏の近親者や全ての日本国民とともに、この喪失の悲しみを共有している。

N・P・パトルシェフ、ロシア安全保障会議書記  (7月9日「ラヂオプレス」[RP])

ロシアのインテリジェンス・コミュニティーが、安倍氏を高く評価していることかがわかります。