バイデンの発言内容の変化を、ロシアが注視

スースロフ】ドンバス(ウクライナ東部のルハンスク州とドネツク州)の戦闘の進捗によって、アメリカの政策が変化しているようだ。もちろんアメリカからウクライナへのロケットシステムを含む武器の供与は続く。400億ドルの包括的支援を変更することもない。しかし、先週来、バイデン政権からウクライナの「勝利」とロシアの戦略的敗北という話が出なくなった。

対して戦闘の「終了」に関する声がよく出てくるようになった。少なくとも交渉による紛争の凍結について言及がなされるようになった。バイデン大統領自身が、紛争はロシアの敗北によってではなく、交渉によって解決されなくてはならないと、最近、「ニューヨーク・タイムズ」で述べた。

5月31日にバイデン大統領がニューヨーク・タイムズに寄稿した記事で、「最終的にこの戦争は外交によってのみ決定的に終結する」「NATOとロシアの間で戦争が起きることを望んでいない」「プーチン氏の失脚を望んでいない」と書いたことを指摘しています。

アメリカの首都ワシントンにあるホワイトハウス。
写真=iStock.com/Vacclav
アメリカの首都ワシントンにあるホワイトハウス。

ロシアが攻勢に転じると欧米は「そろそろこの戦争を手じまいしよう」

ここで、スースロフ氏はサイムズ氏に「あなたはアメリカで何が起きているかについて承知していることと思う。ワシントンの政策は、実際に変化しているのか。変化しているとするならば、それはどの程度、真剣なものなのか」と話を振ります。

サイムズ】(ワシントンの政策は)変化している。それは事実だ。
(中略)
第1の要因は、戦局が変化してきたことだ。残念ながら、現時点では、西側連合の交渉スタンスとの関連では、この要因が決定的に重要だ。

第2の要因は、世論調査の結果だ。メディアでは有識者たちが、ロシアとの紛争に関して、より抑制的な対応ができるのではないかと議論している。これはバイデン大統領と民主党に好感を持つ人々だ。この人たちは、ドナルド・トランプ前大統領のことをとても恐れている。この人たちは世論調査の結果を見ている。アメリカの有権者の中でウクライナ戦争というテーマが優先度を持っていると考える人は3%だ。最初の頃、バイデン氏は自らを勝者のように見せていた。

しかし、アメリカ人の主要な利害関心はインフレだ。インフレによって米社会が破壊されている。商品が不足している。アメリカの国境を防衛する資金がない。アメリカの有権者にとって、またバイデン大統領や民主党を支持する人たちにとっても、ウクライナに提供する400億ドルは、関与しすぎだと見なされている。それによってアメリカの国内的利益が毀損きそんされている。

どちらも鋭い指摘です。ウクライナが優位な戦局だと欧米も強気になって、プーチンを追い払うまで戦うんだと主張するけれど、ロシアが優位になると、そろそろこの戦争を手じまいをしようとなってくる。戦局によって政策が変わるということです。ウクライナのメディアでさえ、ドンバス地方でロシアが大きく攻勢に転じたと報じており(朝日新聞・6月13日)、そのために欧米は「戦闘の終了」に言及するようになっているのです。

2つ目の指摘もその通りでしょう。アメリカの世論調査がバイデン政権の政策に大きく関係している。アメリカの有権者が関心のない問題に時間とお金をかけるのはコストパフォーマンスが悪い。そしてそんなことばかりやっていると、ドナルド・トランプ前大統領が台頭してきてしまう、とバイデン支持者は恐れているというのです。