市場実験のサポートも提供

トライブ・レポートが提供するのは、一種の文化人類学的な生活者調査の報告である。こうした質的な生活者調査を行うマーケティング・リサーチ会社は従前より存在するが、通常この種の調査はオーダーメードで行われるため、事業会社が調査を発注してからレポートを入手するまでには時間がかかるし、少なからぬ費用も発生する。

プリントアウトされたグラフについてビジネスチームが話し合い
写真=iStock.com/courtneyk
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これに対してトライブ・レポートは、事業会社からの依頼を待たずにリサーチ会社が先行して独自にトライブの発見からレポートの作成までを行い、そのアーカイブをクライアント企業に提供する。この変革によって、事業会社の側は、短時間かつ低費用で、新たな市場の萌芽についての情報のシャワーを浴びることができる(もちろん、オーダーメードでトライブ・リサーチを依頼することも可能だ)。

さらに、レポートから得た気づきを基に、短時間・少予算で試験的な商品やサービスをつくり、小規模な市場実験を行う「プロトタイプ実験」のサポートも行っている。販売前に行われるアンケート調査などでは、リリースしようとする製品やサービスが新しいものであるほど、消費者の回答は既存の常識に引き寄せられがちだ(高嶋克義・桑原秀史『現代マーケティング論』有斐閣、2008年p.147)。しかし、試作とはいえ実際の製品やサービスを体験する機会を与えられれば、消費者は常識の壁を越えた価値に気づきやすくなる。これらのプログラムは、事業会社が自らの新しい市場像を明確にしていくための助けとなるだろう。

起業家的機会をつかむための2つの方法論

ここでいま一度、経済学や経営学が示す起業家的機会のあり方に立ち戻ってみよう。起業家的機会をどのようにしてとらえるかについては、大別すると2つの方法がある(S. サラスバスシ『エフェクチュエーション』碩学舎、2015年、p.13、pp.231~232)。

第1は、「発見するものとしての起業家的機会」である。これは、自社内外で進む各種の技術開発や社会インフラ整備などの動向をにらみつつ、広く社会のニーズを調査することで、潜在的な事業機会を発見しようとするアプローチである。大企業などでは、こうした機会の発見に役立つ各種の情報を収集し分析する専門部署をもつことも少なくない。

第2は、「つくり出すものとしての起業家的機会」である。実際のイノベーションにおいては、潜在的な事業機会を事前に発見することが困難な場合が少なくない。しかしそうした状況でも、何らかの行動を開始することによって事業機会を顕在化させられることがある。個人や組織が新たなマーケティング活動を実際に行ってみることで、市場に反応を生み出し、そこから得られる知見を生かして製品やサービスなどをつくり込んでいけばよいのである。