ヒットを生み出し続けるには何が必要なのか。セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんは「既にある商品からも、新しい価値や意味を作り出すことはできる。たとえば大ヒットした『セブンカフェ』は、『上質さ』と『手軽さ』という2つの軸の空白地帯を狙った商品だった」という――。

※本稿は、鈴木敏文『鈴木敏文のCX入門』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

セブンカフェ
画像=セブン‐イレブン・ジャパン広報より

トレードオフを「二者択一」と考えてはいけない

新しいものを生み出すという意味のイノベーション(革新)には二つのパターンがあります。

一つはこれまで存在しなかった概念のものを生み出すことです。そして、もう一つは既存の概念のものに新しい意味をつけ加えて革新することです。

現実的には、前者のように、無から有を生み出されるケースは少なく、多くの場合、後者です。既存の概念のものであっても、いままでにない組み合わせや結びつきによって、新しい意味や価値が生まれるのでしょう。

既存の商品やサービスについて、新しい価値を生み出す方法として、「上質さ」と「手軽さ」をいかに組み合わせるかというやり方があります。

質の高さを追求する「上質さ」と、値段の安さ、入手のしやすさなどの「手軽さ」は、一般的にはトレードオフの関係にあるように考えられます。

トレードオフというと「二者択一」と訳され、白か黒か、二律背反のどちらか一方をとり、もう一方は切り捨てるというとらえ方が多いようですが、お客様のニーズに応えようとするとき、これは正しい理解ではありません。

「上質さ」か、「手軽さ」かのトレードオフの場合、「上質さ」なら上質一辺倒ではなく、その中にどれだけ「手軽さ」をちりばめるか、逆に「手軽さ」なら手軽一辺倒ではなく、どれだけ「上質さ」をちりばめるか、そこに価値が生まれます。これがトレードオフの戦略です。

「上質さ」を実現しながら、価格面の「手軽さ」をちりばめる

「上質さ」と「手軽さ」という、タテとヨコ、二つの座標軸で市場をとらえたとき、競合も進出していなければ、誰も手をつけていない「空白地帯」を見つけ、自己差別化をすることです。

【図表1】「上質さ」と「手軽さ」のトレードオフ

セブンプレミアムも空白地帯を見つけ出した典型です。

流通のPB(プライベートブランド)商品は一般的に価格面での「手軽さ」に傾倒します。これに対し、NB(ナショナルブランド)商品と同等以上の「上質さ」を実現しながら、価格面の「手軽さ」をちりばめることにより、PB商品の空白地帯に投入したセブンプレミアムはコンビニ、スーパー、百貨店のどの業種、どの店舗でも大ヒット商品になりました。

さらに、本格的な味を求め、専門店と同等以上の品質を手ごろな値段で提供するワンランク上のセブンプレミアムゴールドのシリーズも、より「上質さ」を高めて、新たな空白地帯を開拓し、ヒット商品になりました。

金の食パンのように、一般的なNB商品より価格が上でも、「上質さ」をきわめたことで、食パン市場の空白地帯に埋まっていたお客様の潜在的ニーズを掘り起こすことができたのです。

また、セブンカフェは1杯100円という「手軽さ」の中に高品質という「上質さ」をちりばめて大ヒット商品になりました。