過去の延長線上にとどまれば、必ず「不毛地帯」に陥る
「上質さ」と「手軽さ」のトレードオフを考えるとき、もっとも注意すべきなのは、お客様が求める「上質さ」も、「手軽さ」も、どちらも価値軸が常に変化するため、それに対応して売り手も変化していかないと、いつのまにか気づかないうちに取り残され、不毛地帯に入ってしまうことです。
セブン‐イレブンも、創業当初から、おにぎりや弁当の販売など、「手軽さ」の中にも「上質さ」をちりばめて、「手軽さ」と「上質さ」を両立させました。
その後も、セブンプレミアムやセブンプレミアムゴールドの開発に示されるように、「上質さ」を追求し続けました。「手軽さ」も、創業当初の近くにあっていつでも開いている「手軽さ」から、公共料金などの払い込み、ATM(現金自動預払機)設置、マルチコピー機を使って住民票の写しや印鑑登録証明書が取得できる行政サービスなど、利便性をプラスオン(付加)し続けました。これからも、「手軽さ」「上質さ」の両面でプラスオンは欠かせません。
過去の延長上にとどまっている限り、必ず不毛地帯に陥ります。
もう一ついえば、日本とアメリカでは不毛地帯の広さが違います。所得階層が大きく分かれるアメリカでは、ウォルマートのように低価格が「手軽さ」に結びつきやすい。
一方、一人の消費者が100円ショップから専門店まで使い分ける日本では求めるレベルが高く、不毛地帯のゾーンがはるかに広いのです。
重要なのは、常にトレードオフの内容を考え続ける戦略的な思考です。いま求められる「上質さ」「手軽さ」は何か、そこにどんな「手軽さ」「上質さ」をちりばめるか。ひとたび動きを止め、変化対応を怠ると不毛地帯が忍び寄ることを忘れてはなりません。
ものごとを「再定義」することで新しい価値を生み出す
固定概念をくつがえす、あるいは、予定調和を壊すとは、ものごとの既存の定義を打破し、本質から外れない限りで、新しい定義を打ち立てていくことです。
このとき、忘れてはならないのは、ものごとの定義は固定的でもなければ、一つだけとは限らない、いくらでも再定義できるということです。そして、ものごとを再定義すれば、これまではなかった価値をお客様に提供できるようになるということです。
わたしがセブン‐イレブンでおにぎりや弁当の販売を提案したとき、まわりから「おにぎりや弁当は家でつくるものだ。売れるわけがない」と反対されました。それは、おにぎりや弁当についての既存の定義に縛られた発想でした。
おにぎりは、いまやセブン‐イレブンだけでも、年間約23億個販売され、おにぎりといえば、「コンビニで買うもの」という定義が定着するにいたっています。