なぜ拡大路線に転じたスタバの業績は急落したのか
トレードオフが不明確で、「上質さ」も、「手軽さ」も中途半端になると、お客様の選択からはじかれます。『トレードオフ 上質をとるか、手軽をとるか』(ケビン・メイニー著、プレジデント社刊)という本では、中途半端な状態を「不毛地帯」と呼んでいます。お客様が、特に価値を感じなくなる状態のことです。
一例として、一時業績が急落したアメリカのスターバックスをあげています。
スターバックスは「ゆったりとしたひと時を過ごすためのオアシス」という体験価値を提供し、「上質さ」を基本戦略としてお客様の絶大な支持を得ながら、そこにはコーヒーショップの「手軽さ」もちりばめられていた。
ところが、拡大路線に転じ、出店攻勢をかけて以降、手近な店になった半面、「上質さ」は薄れ、かといってマクドナルドほどの「手軽さ」もなく、不毛地帯に陥り、業績が低迷した。そこで再び、「上質さ」へと軌道修正したことで回復していったわけです。
伸び悩む時こそ、座標軸で目指す方向性の見直しをする
アメリカのセブン‐イレブンの経営が1980年代に悪化したのも不毛地帯に陥ったからです。スーパーマーケットが24時間営業を始め、ディスカウント戦略を強化したのに追随し、同じ戦略に走ったことが原因でした。
商品アイテム数に勝るスーパーと価格で競争して成り立つはずがありません。「上質さ」もなければ、「手軽さ」が中途半端になり、セブン‐イレブンで買い物をするコトの価値がなくなり、経営は破綻。われわれに支援を求めてきました。
そこで、セブン‐イレブン・ジャパンの経営のやり方を導入。ファストフード類の品質や鮮度を高めるなど、「手軽さ」と同時に「上質さ」をちりばめる戦略を徹底し、再生を実現したのです。
もし、業績が伸びなければ、「上質さ」と「手軽さ」の二つの座標軸でどの方向性を目指すかというトレードオフの戦略が中途半端になっていないか、確認すべきでしょう。