※本稿は、鈴木敏文『鈴木敏文のCX入門』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「モノは所有」「コトはサービス」ではない
よく、「モノからコトへ」の変化が話題になるとき、こんな説明がされることがあります。
しかし、これは、コトの意味合いを狭くとらえているように思えます。
わたしは、長年、セブン&アイ・ホールディングスという流通企業の経営に携わってきました。その間、わたしがよく使ったのは、次のような表現でした。「単にモノを売るのではなく、モノをとおして、お客様に満足していただけるようなコトを提供する」
コトとは、モノ(商品)がお客様にとって、そのとき、その場で、どのような意味をもつかという関係性のことであると、わたしは考えます。
「コト消費」は、心理的・感情的な価値である
商品には、もともと、モノ的な価値とコト的な価値があります。モノ的な価値とは、そこにヒト(買い手)がいようといまいと、モノそのものがもっている価値のことをいいます。服でいえば、デザイン、色や柄、素材、丈夫さや体温保持といった機能、性能などの客観的な価値を意味します。
一方、コト的な価値とは、モノとヒトとの間で、買い手がそのとき、その場でのモノとの関係性に対して感じる主観的な価値です。服でいえば、目で見ても、試着しても、何も感じるものがなければ、何も関係性は生まれません。その服に、どこか共感・共鳴・共振するところがあり、試着してみてワクワク感を感じたり、購入して着用し、心の高揚感を感じれば、関係性が生まれます。
たとえば、セブン&アイグループのPB(プライベートブランド)商品のセブンプレミアム。女性のお客様の中には、週末、一週間頑張った自分へのごほうびに購入するという「ごほうび消費」をされる方がいるそうです。これなどは、まさに、コト消費といえます。
モノ的な価値が物質的・物理的な価値であるのに対し、コト的な価値は心理的・感情的な価値と表現することができるでしょう。