「損したくない」は「得したい」よりも強い
人は、損と得を同じ天秤にかけようとせず、通常は損して失うもののほうが得して得るものより大きく感じてしまう。ただ、現金下取りなら、服を手放す損失の感覚を上回る喜びが得られるので、利用しようと思うのです。
結果、現金下取りセールは大ヒットし、他のスーパーや百貨店も追随しました。
単に2割引きでは特に洋服を買おうとは思わない。でも、不要の古い服を下取りに出して、お金に換え、新しい洋服を買うのであれば、自分の選択を納得できるし、消費を正当化できる。それが人間の心理であり、感覚であり、感情です。
セールを疑問視した人々は、「現金下取りは2割引きと同じ」→「いまは割引きしてもなかなか売れない」→「下取りだけでは反応しない」と理屈で考えました。
現金下取りも2割引きも同じと考えた人たちは、どちらも5000円の洋服を4000円で買う点では同じと考えたわけです。これは、買い手にとっての現金下取りの意味や関係性に目を向けず、商品を売ることだけを考えるモノ的な発想です。
一方、わたしはこう考えました。タンスの中が服でいっぱいなら、タンスの中を空ける仕かけを考えればいい。もう着ない服が価値をもち、タンスの中が空くなら、お客様はお店にやってくるはずだ。
そして、5000円の洋服を買い、不要の服を下取りで1000円を得る。現金下取りセールという一連の体験に価値を感じ、消費がイベント性をもつようになる。これはコト的な発想です。
「5%割引き」ではなく「消費税分5%還元」
少し前の話になりますが、1997年に消費税率が5%に引き上げられたときに行った「消費税分還元セール」も同じです。
当初、営業幹部に提案すると、「消費税分還元は5%引きと同じ」「普段の売り出し10、20%引きでも必ずしも売れるわけではないのに、5%では魅力を感じてもらえないのではないか」と大半が反対意見でした。
それが、実施すると大反響を呼び、売り上げは6割増です。特に売れたのは1着数万円もするカシミアのコートなど高価格のものでした。
消費税率の引き上げは、国家財政にとっては必要でも、消費者の心理ではやはり抵抗があります。だから、「5%割引き」ではなく、「消費税分5%還元」というイベント性がヒットしたのです。