お客自身が意識しなかった潜在的ニーズを満たす工夫

海辺の町で、釣り船の発着場に近い道路沿いにセブン‐イレブンの店舗があったとします。いまは釣りシーズン真っ盛りです。明日は週末で、天気予報では晴天で絶好の釣り日和のようです。早朝から釣り客が昼食を買いに立ち寄ると予想されます。

昼には、かなり気温が上がりそうです。釣り客の心理からすると、時間が経っても傷みにくいイメージのある食べ物を求めるはずです。「それなら梅のおにぎりが売れるのではないか」。そう仮説を立てて、普段より多めに仕入れておきます。

釣り客も、昼食を買うつもりで店に寄りますが、何を買うかまではあまり決めていません。陳列棚に大量に並んでいる梅おにぎりと、釣りのお弁当に梅おにぎりをすすめるPOP広告を見て、自分でもあまり意識しなかった潜在的ニーズに気づき、次々と買っていく。

そして、昼になり、梅おにぎりというモノ(商品)の味に満足するとともに、気温が高い炎天下でも安心しておにぎりを食べられるというコト(体験)に価値を感じ、満足する。

梅干しのおにぎりとたくあん
写真=iStock.com/akiyoko
※写真はイメージです

そして、「あのコンビニは釣り客のことがわかっている店だ」と評価し、これからも繰り返し利用しようと思う。ここに顧客ロイヤルティ(続けて利用しようと思う度合い)が生まれます。

この海辺のコンビニでは、お客様に満足していただけるだけの顧客体験を提供したことで、収益に結びつく。

商品(モノ)を売るのではなく、商品をとおして体験(コト)を提供する。

このように、セブン‐イレブンの商品発注の場合、お客様の心理を読んで、行動を予測し、どんな体験(コト)を望むかを予想して、明日の売れ筋商品の仮説を立て、商品(モノ)を発注し、結果を検証するという「仮説・検証」を日々、実行しているのです。

「20%引き」より「現金下取りセール」がウケる理由

リーマン・ショック後、消費が急落するなかで、わたしの発案でイトーヨーカ堂が始めて大ヒットした「現金下取りセール」という不況突破企画があります。

衣料品のお買い上げ金額の合計5000円ごとに、お客様の不要になった衣類を1点1000円で下取りするという企画です。

現金下取りセールは理屈上は「2割引き」と同じです。そのため当初、社内では「割引きをしても簡単には売れない状況なのに、割引きもせず、下取りをするだけではお客様は反応しないだろう」と疑問視する声があがりました。

しかし、これは売り手側の発想です。わたしはお客様の心理や感覚に目を向けました。

いまはモノ余りで、どの家庭もタンスの中は着なくなった服であふれています。着なくなった服は客観的に考えれば、価値はありません。でも、捨てると損をするような気がして自分ではなかなか捨てられない。ただ、下取りであれば、着なくなった古い服に新たな価値が生まれます。ならば、お金に換えて買い物をしようと思うでしょう。