※本稿は、物江潤『「それってあなたの感想ですよね」:論破の功罪』(新潮社)の一部を再編集したものです。
“誹謗中傷が正当化される”界隈
ネット上には、そんな反社会的な行動が常態化している界隈が多く存在しています。たとえば『好き嫌い.com』というサイトです。よく、SNSやYahoo!ニュースのコメント欄が誹謗中傷をするユーザーの巣窟と見なされますが、このサイトは群を抜いてひどい。
読んで字のごとく、同サイトは特定の有名人に対し「好き」か「嫌い」のどちらかに投票したうえで、両陣営に分かれて放言する場です。「不人気ランキング」の上位になると、優に十万を超える投票と数万を超える書き込みがなされており、驚くほど多くの誹謗中傷で溢れています。
こんな界隈の住人になった人々が、反社会的な規範を内面化してしまった結果、SNS等で悪口雑言の限りを尽くすのは目に見えています。厄介なのが、その誹謗中傷をしている住人たちにまるで罪の意識が見られないことです。
本書で先に紹介した『首領への道』シリーズ(編集部注:極道がテーマのVシネマ)では、「わしらの世界では灰色は黒だ!」という頻出する言葉がありますが、ここの住人のモノサシはまさにこれです。
いや、灰色なのは相手の言動ではなくて、住人たちの目に形成されてしまったフィルターだと思えるほど、些細なことに疑いの目を向けることで誹謗中傷を正当化してしまいます。
「一枚もツーショット写真を確認できないから結婚は嘘で売名行為」「余命宣告されているのに明るすぎる。詐病で金もうけをしているに違いない」等々、枚挙にいとまがありません。
なかには、矛先を向ける有名人のブログが更新される度に書き込みという名の難癖をつける住人たちもおり、もはやライフワークというか生きがいになっているのではないかと思えるほどです。
学歴をネタにした“YouTubeチャンネル“
これと似たようなケースは、中高生がよく足を踏み入れる界隈にも存在します。そして、意図せずともそんな反社会的な界隈の様子が不可避的に目に飛び込んでしまうため、実に多くの中高生が厄介な界隈の存在を知ってしまう現状があります。
暇つぶしがてら、動画サイトやSNSでショート動画を見ていると、その界隈に関する動画が流れてくるため、意思に反して目に入ってしまうのです。
たとえば、『wakatte.TV』というYouTubeチャンネルです。道行く人々に学歴を尋ねたうえで、その学歴を賞賛したり嘲笑したりするという、低俗極まりない動画が数多く確認できます。
同チャンネルの説明文によれば「この番組は全国の受験生、高校生のみんなに『絶対にこんな大人になるなよ!』という思いを込めて、あえて日本の学歴社会を皮肉る学歴第一主義のブラックキャラクター「高田ふーみん」と、お友達の「びーやま」による、教育痛快バラエティ番組です」とあります。が、これが建前であることは明白です。コンプライアンスに厳しく縛られているテレビでは決してできない、過激な企画が受けるというYouTubeの潮流に乗っているだけでしょう。