「年間10億杯以上」コーヒーを日本一売る店になるまで

既存の商品の再定義による大ヒットの典型は、セブン‐イレブンのセルフ式ドリップコーヒー「セブンカフェ」でしょう。

2013年に本格展開してから約1年間で、累計販売数が4億5000杯と、数あるカフェやファストフード・チェーン店を上回る規模の売り上げを記録し、ヒット商品番付で東の横綱にランクされました。

いまでは年間10億杯以上を売り上げ、セブン‐イレブンは「日本でいちばんコーヒーを販売する店」になっています。

セブンカフェは、コンビニコーヒーを「上質さ」と「手軽さ」の座標軸で再定義した商品でした。

鈴木敏文『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(プレジデント社)
鈴木敏文『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(プレジデント社)

コーヒー豆は各国で収穫されるなかでもハイグレードなものだけを厳選し、コーヒー鑑定士の風味確認を経た素材を使用する。コーヒーの甘味をより引き出すため、2段階の温度で2工程かけて煎り上げるダブル焙煎を行った豆を、各店舗にチルド温度帯(10度以下)で配送して焙煎直後の品質を維持する。

水も抽出に最適な軟水を使い、1杯ごとに挽きたてをペーパードリップする。

デザインにも力を入れ、専用サーバーやロゴのトータルプロデュースを佐藤可士和さんにお願いしました。佐藤さんは、セブンカフェのトータルプロデュースをするにあたり、「コーヒーを楽しむ日常の時間をより上質にしていきたいという思いで取り組んだ」といいます。

主婦やシニアなど新たな層を掘り起こした

レギュラーサイズ(150ミリリットル)が1杯100円という「手軽さ」の中にも、徹底して「上質さ」を追求した。セブンカフェは、「上質さ」と「手軽さ」の絶妙なバランスを実現したことにより、お客様に「日常の中のちょっとした上質な時間」という価値を提供することに成功しました。

注目すべきは、通勤客の多いオフィス街だけでなく、住宅地の店舗でも30~50代の主婦やシニア層が購入するなど、新しいニーズを掘り起こしたことです。

社会現象としても話題を呼び、日本経済新聞社の「日経優秀製品・サービス賞2013」においても、「『コンビニでコーヒーを買う』という新たな消費行動が根づいた」として、最優秀賞を受賞しました。

セブンカフェは、コンビニコーヒーの再定義により、新しい体験価値を生み出し、まさに市場の空白地帯を掘り当てたのです。