素早く気づき、素早く動くためのリサーチ
とはいえ第2のアプローチにおいても、実験的に製品やサービスをリリースするなどのテストマーケティングに踏み切るには、きっかけとなる何らかの気づきが必要である。ネスカフェ・アンバサダーの例でいえば、集会所への寄贈によって「コーヒーマシンを無料で配布する」ビジネスモデルの可能性に気づかなければ、「つくり出すものとしての起業家的機会」を可視化するテストマーケティングは動き出さなかった。
博報堂のトライブ・レポートは、第2のアプローチに必要なこうした「気づき」の提供を目指すものだといえる。代表性や一般性にこだわらず、今は少数派であっても新しい展開が望める消費のあり方を収集。それを年間100本+アーカイブという形で提示することで、事業会社が短時間に「気づき」を得、迅速に行動を開始する動きを後押しすることを企図している。
トライブ・レポートから導出される仮説は、直感的な未来への感覚であって、確実な市場性が検証されているわけではない。しかし、その仮説に基づき、試作した製品やサービスによる小規模な市場実験を繰り返し、市場の反応を得ながら事業の方向性を探っていけば、リスクはある程度コントロールできる。
各種デジタル技術の活用が可能な現在では、市場実験の結果を迅速にデータ化し、分析することも容易だ。「プロトタイプ実験」のための各種サポートを含め、トライブ・リサーチには「つくり出すものとしての起業家的機会」を得るために必要な、マーケティング・リサーチの特性が織り込まれている。
起業家的機会は、「発見する」だけでなく「つくり出す」こともできる。もしイノベーションに挑むなら、何をどのようにとらえるためにマーケティング・リサーチを実施するのかについても、見直してみる必要がありそうだ。