※本稿は、橋本愛喜『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
悪質な煽り運転を受け、夫婦が死亡
2017年6月、神奈川県の東名高速道路で悪質な煽り運転を受けた末、夫婦が死亡、娘2人が負傷した事故は、ハンドルを握るほぼ全てのドライバーにとって、自身や周囲の運転マナーを見直す大きなきっかけになったはずだ。
事の発端は、事故現場から数キロ手前の中井パーキングエリアで、被害者の男性が被告に駐車位置を注意したこと。それに逆上した被告はその後、一家4人が乗ったワゴン車を執拗に追いかけ、煽りなどの妨害運転を繰り返したうえ、停車が原則禁止されている高速道路の追越車線にクルマを停めさせ、一家を死傷させる結果に追いやった。
追越車線にクルマを停めさせることは、殺人行為と断言できる。同車線を走るクルマの平均時速は約100キロ。このスピードでクルマが障害物に衝突すると、高さ39メートル(ビルの14階相当)から落下した際と同じ衝撃が生じるのだ。
しかも、この事故でワゴン車に追突したのは、「殺傷力」の高い大型トラックだ。本来、大型車は追越車線の走行を禁じられており、このトラックドライバーは道路交通法違反となる。
「本当に複雑な気持ちになる」
しかし、夜の追越車線上に、まさかクルマを停車させた生身の人間が車外に立っているとは、誰も想像しない。
また、今回の場合、追突したのがトラックではなく乗用車だったとしても、危険を察知してブレーキを踏み、クルマが完全停止するまでの「停止距離」は相当必要となり、彼らを避け切るのは非常に難しく、夫婦はいずれにしても助からなかった可能性が極めて高い。
さらに言うと、皮肉なことだが今回のケースは、衝突したのがトラックでまだマシだったとさえ考えられる。車高が高く、車体も強いトラックだったからこそ、トラックドライバーの命は助かったが、これがもし乗用車だった場合、追突したほうのドライバーも死亡していた可能性があるからだ。