※本稿は、藤井達夫『〈平成〉の正体 なぜこの社会は機能不全に陥ったのか』(イースト新書)の一部を再編集したものです。
戦前と今の類似点を見出すのは難しい
【藤井】第1次安倍内閣が2006年に、第2次安倍内閣が2012年に誕生します。安倍政権を見ていると、公文書を改ざんしたり、メディアコントロールをしたりとモラルの崩壊が起きている。その様子が戦前、戦中の国家と比較されることは多いですが、辻田さんはどのように捉えていますか。
【辻田】戦前は今と憲法体制が違うので、違う点は多々あります。類似点は難しいですね。強権的といわれた東条英機ですら戦争中に首相を辞めています。海軍の作戦に口を出せなかったり、権力の掌握に苦労していたり、その反省から、戦後は総理大臣に権限が集中しています。その結果が現在です。
【藤井】確かにその通りですね。戦前の反省のもとに戦後の代表制度があり、その反省のもとに今の体制があるわけです。平成に入ってからは、55年体制への反省に基づいて、首相を中心とする内閣の権限強化が続いていき、その結果が今の政権に連なっています。
【辻田】今の政権は分割統治と内部統制に長けている。野党が分裂状態なので、選挙をしても負ける理由がない。政権を支持している人の多くは「ほかにいないから」という理由です。それでダラダラと政権が続いている。今は翼賛選挙のように、選挙干渉がされているわけではありません。「安倍はヒトラー」と批判する人がいますが、何もいっていないに等しい。あまり戦前の比喩に頼りすぎないほうがいいでしょう。それよりも政権交代可能な野党を育てるほうが先です。
「忖度」という効率的な統治システム
【藤井】確かに、安倍政権とナチスを同一視するには無理がある。では、今ちまたで話題となっている、忖度(そんたく)への風潮はいかがですか?
【辻田】戦前も忖度がありました。メディアを統制するときに、検閲官もいきなり発禁をせずに「するぞするぞ」と脅しをチラつかせて従わせていた。実際に処分をすると書類も残るし手間もかかる。「ここはどうなの」と脅して、相手がおじけづいてしまうほうがいい。忖度は効率的な統治システムなんです。