※本稿は、佐藤優、片山杜秀『平成史』(小学館)の第5章「『3.11』は日本人を変えたのか 平成21年→24年」の一部を再編集したものです。
のんびりした空気の中で生まれた民主党政権
【佐藤優(作家)】09年に話を進めましょう。4月に新型インフルエンザが流行しました。私は新型インフルエンザの話題が出るたび、ロシア人と日本人の感覚のズレを感じます。ロシアではインフルエンザを中国風邪と呼びます。ロシアの軍医たちはこう言うんです。「中国風邪は毎年新型だ。我々が見るのは、自然発生したウィルスか、人為的なウィルスかだ」と。
彼らは05年に鳥インフルエンザが中国や東南アジアで発生したときも中国の生物兵器なのではないかと疑っていた。日本ではそういう議論はまったくでないでしょう。
【片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授)】小松左京の『復活の日』は、軍事目的で開発された新型インフルエンザのウィルスが事故で広まって、人類が滅亡の危機に瀕する小説です。60年代の小説ですよ。すでにそういう物語がリアリティをもって示されて半世紀経つのに、いまだに日本人に危機感はありませんね。
【佐藤】いまある世代、ある人種だけに効果があるインフルエンザウィルスが開発されていて、戦場で使用すると非常に効果があるそうです。
【片山】生物兵器を使えば、ある人種だけを狙った絶滅戦争が起こせてしまう。そんな時代が現実になったわけか。
【佐藤】そうです。でも片山さんがおっしゃったように日本では誰も危機感を持っていない。そのようなのんびりとした空気のなかで登場したのが、民主党政権でした。
【片山】09年7月、まだ野党だった鳩山由紀夫が沖縄で「最低でも県外」と基地の移転先について発言しました。その2カ月後、政権交代で鳩山内閣が誕生した。民主党政権は鳩山、小沢、菅が中心となるトロイカ体制を敷いたでしょう。私は彼らの組み合わせや総理になる順番が違ったなら民主党政権はまた違った結果を残していたかもしれないと思うのですが、いかがですか?