政治家への道、きっかけは父親の言葉

【佐藤】そうなんです。政治家になるきっかけは父親の鳩山威一郎の言葉なんです。大蔵省の官僚だった威一郎は、青函トンネルの予算を担当していた。鳩山は父からこんな話を聞く。

「青函トンネルの予算を付けるとき、複線でなく単線で作っておけば、予算もかからなかったし、工期も短縮できた」

鳩山威一郎はそう後悔していた。そこで鳩山は「数学を使えば、最適な意思決定ができたのではないか」と考え、政治家になる決意をする。そして彼は偏微分方程式やマルコフ連鎖確率理論を使った意思決定をしようとした。

【片山】一般的に鳩山はふらふらして発言がぶれるというイメージがあると思うのですが、そのブレは実は計算尽くなんですね。それでああなるのか。

慶應義塾大学法学部教授の片山杜秀氏(左)と作家の佐藤優氏(右)

方程式に当てはめても沖縄問題は解決できない

【佐藤】そこが彼の問題なんです。たとえば、首相時代は、アメリカの国家戦略や東アジア情勢、沖縄の世論が変わっていく。それぞれを偏微分方程式に当てはめて解を出す。

でもアメリカの国家戦略も東アジア情勢も、沖縄世論も刻一刻と変わる。だからその都度、回答が変わっていく。しかも問題に輪をかけているのは、いまだに鳩山はそれで最適な意思決定ができると考えていることです。

【片山】非常に面白い話ですが、彼の意思決定理論で沖縄問題は解決できなかった。なぜ解決できなかったのでしょう。政治に応用するのは無理があったのですか?

【佐藤】マルコフ連鎖理論で考慮するのは直近の出来事だけで、歴史や過去の事象を考慮しない。マルコフ連鎖理論は交通渋滞の解消や天気予報などでは効果が実証されているのですが、政治に有効なのかは分かりません。

これは彼とも話したことなのですが、歴史の積み重ねで複雑になった沖縄問題は直近の変化だけでは読めない。結果を見れば、無理があったのでしょうね。