「アベノミクス」の最大の実績は、雇用環境の改善だといわれる。かつて5%前後だった失業率は、今年8月には2.8%まで下がった。それではなぜ景気回復の実感がともなわないのか。第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミストは、「不本意で非正規社員になっている人まで含めた『広義の失業率』は悪化している」と指摘する。日本の雇用環境の実態とは――。

人口構成や労働意欲も失業率を動かす

雇用環境を示す最も代表的なデータに失業率があり、日本の失業率は総務省「労働力調査」の中で公表される。そもそも失業率とは、労働力人口に占める失業者の割合と定義され、労働市場における需要と供給のバランスで決まってくる。ちなみに労働力人口とは、15歳以上で実際に働いているか、求職活動をしている人のことを指す。

そして、例えば景気が良くなって企業の生産活動が活発になれば、求職活動している人が職にありつきやすくなるため失業者(失業率の分子)が減って失業率が下がる。

一方、労働参加率(労働力率)も失業率に影響を与えることがある。労働参加率とは労働力人口の総人口に対する比率のことで、これは人口構成や労働意欲によって変動する。例えば、高齢化や景況感の悪化などによって求職活動をする人が減れば、労働力人口(分子)が減るので労働参加率は低下する。後述する失業の定義上、求職活動をあきらめた人は失業者にカウントされないため、労働力人口の減少以上に失業者が減り、失業率が低下する場合がある。

労働参加率の上昇が労働力人口を押し上げ

そこで、わが国の失業率の推移を振り返ってみよう。1991年度平均の2.1%を底に上昇基調となった完全失業率(≒失業率)は、2002年度には平均5.4%まで上昇したが、その後は2007年度に3.8%まで低下した。そして2009年度に再び平均5.2%まで上昇した後に低下しており、2016年度は3.0%と1994年度以来の低水準にある(資料1)。