日本政府の借金が深刻な状況にあるといわれる。だが、「アベノミクス」の結果、GDP比でみれば借金は増えていない。つまりGDPが上昇しているので、借金額は相対的に小さくなっているのだ。このため第一生命経済研究所の永濱利廣・主席エコノミストは「財政再建より景気回復を優先するべきだ」と主張する――。

景気が良ければ財政は改善する

日本政府の借金がどれだけ深刻な状況にあるのか考えてみよう。IMF(国際通貨基金)のデータによれば、日本の国と地方自治体等を含めた一般政府の借金は、2016年時点でGDPの2.5倍に上り、主要先進国(G7)の中では最大となっている。しかし、2014年をピークとして、2015年以降はその水準をやや下げており、アベノミクス以降の政府の借金はGDP比で見て、実は上昇がいったん止まっている。

一方で財政赤字は国債などの発行によって穴埋めするので、政府部門の借金の増加分を示すが、これもGDP比で見ると、2016年時点で4.5%まで縮小している。そして、同時期の米国の財政赤字がGDP比で見て5.0%となっていることからすれば、G7諸国の中で最下位から脱出していることになる。そして、アベノミクスが始まる前の2012年の財政赤字がGDP比で8.1%あったことからすれば、この4年間で財政赤字のGDP比は45%近く減ったことになる。

この結果は、政府の借金問題は景気が良ければ改善するということを示している。というのも、財政赤字が減った背景には、2014年4月の消費税率引き上げにより税収が増加したこともあったが、それによる税収の増加分は半分強にとどまる。そして、消費増税にもかかわらず景気回復が途切れず、極端な円高・株安が是正したことにより企業業績が拡大したことで、法人税率を下げたにもかかわらず法人税収が増えたことや、株価や地価が上昇したことで金融や土地取引が増加して、それに関連する税収が増えた影響も大きかったことがわかる。

以上より、財政赤字が縮小したのは、アベノミクスに伴う景気回復により自然増収となり、歳入が増えた要因が大きいことがわかる。また、税収がより顕著に増えた裏側には、景気回復に伴って赤字企業の割合が下がったことや、雇用者数が大幅に増えたことなどにより、税金を払う企業数や雇用者数が増えたこともある。これが、アベノミクス以降に税収が大きく押し上げられた理由である。