来春、5年の任期を迎える黒田東彦日銀総裁の続投観測が支配的になってきた。そんな中、日銀は10月31日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で2017年度の物価見通しを引き下げ、デフレ脱却の道のりが一段と厳しくなっている。一方、日本株高が進む中で、緩和手段の一つである「年間約6兆円のETF(上場投資信託)の買い入れ」については「官製相場」との批判が強く、縮小観測も浮上している。「2期目」に備える黒田日銀は、難しい課題を背負いながら、出口へ向けた舵取りを迫られている。

安倍の高評価と黒田の自信

「経済や金融市場の現実を把握する能力と理論的な分析能力も必要だ。国際的なヒューマンネットワークも必要となってきた」

10月31日に開かれた金融政策決定会合後の記者会見で、日銀総裁に必要な資質について問われた黒田は3つの要件を示した。

かつて財務省の財務官として国際金融の舞台で活躍、金融学者レベルの理論家として知られ、主要な金融関係者とグロ―バルな人脈を持つ黒田自身のことを示唆していると受け止めた金融関係者は多い。このところ記者会見でいら立ちや、自信の揺らぎを示すこともあった黒田だが、この日の記者会見では、落ち着きと自信を取り戻していた。

黒田の発言と呼応するかのように、首相の安倍晋三も翌日の11月1日の記者会見で、次期総裁人事は「まったくの白紙」としながらも、黒田について「手腕を信頼している。金融政策は任せている」と高く評価、続投の意向をにじませた。

衆院選での安倍の圧勝がマスコミの世論調査で示され始めた10月初旬から、日経平均株価(225種)の上昇トレンドは、一段と鮮明になった。その背景には、安倍の政権基盤の安定化で、黒田の日銀総裁続投の可能性が高まり、現在の金融緩和路線が維持されるとの期待が市場に広がったことがある。

いまだ描けぬデフレ脱却の道筋

異次元緩和によって過度な円高を是正した黒田日銀が、雇用の改善と株高に貢献し、安倍の長期政権を支える役割を果たしたことは、間違いないだろう。しかし、黒田と安倍が政策目標として掲げた2%の物価上昇への道は遠く、日本経済に巣くうデフレという病からは脱却の道筋が描けないままだ。

日銀が10月31日に公表した展望リポートで、2017年度の物価見通しを従来の1.1%から0.8%に引き下げた。これまで繰り返し、先送りを続けていた物価上昇率2%の達成時期は「19年度ごろ」を維持したが、デフレ脱却への道が厳しいことが、あらためて示された格好だ。

日銀は、2017年度の物価見通しが下振れた点について、携帯電話や通信料の引き下げという一時的な要因に加えて、「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に 根強く残っていることが影響している」と説明している。日銀は、こうしたデフレ心理に引きずられて物価が改善しない状況を「適合的な期待形成」と呼んでいる。