12月は予算の季節。経済成長重視のアベノミクスに対して、「財政再建を忘れたのか」といった危惧の声も上がる。ところが経済成長率以上に税収が伸び、財政を見る重要指標である「基礎的財政収支」は改善してきている。それはなぜか。その鍵を握るのが「税収弾性値」という数値だ――。

税収弾性値は政府の想定以上に高い

政府は財政再建を実現するために、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという目標を掲げている。

そもそも基礎的財政収支とは、国や地方自治体などの基礎的な財政収支のことを示し、一般会計において、歳入(収入)総額から国債等の発行による収入を差し引いた金額と、歳出(支出)総額から国債費等の支出を差し引いた金額の収支を見たものである。つまり、基礎的財政収支が黒字ということは、国債の発行に頼らずにその年の国民の税負担などで国民生活に必要な支出がまかなえている状態を意味し、逆に赤字ということは、国債等を発行しないと支出をまかなえないことを意味する。したがって、赤字なら国債という名の借金が増えていくことになる。

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このため、基礎的財政収支は基本的に経済成長率が高まれば税収が増えて改善するが、経済成長率が低下して税収が減れば悪化することになる。しかし、基礎的財政収支は経済成長に対して税収がどの程度増えるかの関係によっても左右される。

この関係は税収弾性値と呼ばれ、税収の増加率を名目国内総生産(GDP)の伸び率で割って算出される。そして、名目GDPが1%増加し、税収も1%増えれば税収弾性値は1になる。このため、税収弾性値が高くなれば、経済成長よりも速いペースで税収が増えて財政再建への効果が大きくなる。そして税収は、景気循環で変動する「名目GDP要因」と税収の弾性値で左右される「税収弾性値要因」に分けられることになり、財務省のホームページによれば税収弾性値は1強程度とされている。つまり、名目経済成長率が1%成長すると、税収は1%強増加するとみていることになる。

過去20年の平均税収弾性値は経済成長率の2.9倍

しかし、政府の「中長期の経済財政に関する試算」で基礎的財政収支の予測と実績を対比してみると、名目経済成長率が見通し対比で下振れしているにもかかわらず、基礎的財政収支は見通し対比で改善傾向にある。これは、政府の見通しでは税収弾性値をうまく設定できていないためだと考えられる。つまり、名目GDP成長率が1%変化したら税収が何%変化するかを示す税収弾性値が現実よりも低く想定されているためである。

「中長期の経済財政に関する試算」では、名目GDP成長率に対する税収増加率の比率を示す税収弾性値は1.0~1.1程度となっている。一方、現基準のGDPデータが取れる1995年以降の税収弾性値を計測すると2.9以上程度あることがわかる。つまり、少なくともこれまでの関係によれば、名目経済成長率が1%成長すると、税収は政府が見積もる1%強の増加ではなく、平均して2.9%増加していることになる。したがって、政府は想定している税収弾性値を低めに見積もることを通じて、基礎的財政収支の先行き予測を慎重にしすぎている可能性が高い。

90年代後半から税収弾性値が高まった理由の一つに、日本が資産デフレによる不況を経験したことがある。つまり、資産価格の下落は企業を借金の返済に走らせ、それが国内需要を萎縮させて、税収悪化を増幅させたからである。しかも、わが国では資産価格の下落局面で時価会計(帳簿上の価格でなく市場価格で測りなおすこと)を導入したため、資産価値下落による評価損や売却損が企業収益を直撃し、税収がGDPの落ち込みをはるかに超えて減少した。