デフレからの脱却は、安倍政権発足以来の大目標である。2018年1月~3月期には、消費者物価指数などデフレ脱却の目安とされる主要4指標がすべてプラスに転じたため、「デフレ脱却は近づいている」との見方もある。だが第一生命経済研究所の永濱利廣首席研究員は、「実質賃金はマイナスに転じており、むしろデフレ脱却は遠のいている」と指摘する――。

主要4指標がそろってプラスに

安倍政権は2012年の政権発足以来、デフレ脱却を政権の最優先課題としてきた。そして、安倍政権はデフレ脱却の目安として4指標を重視しているとされており、2018年1~3月期時点では2017年7~9月期以来2四半期ぶりにこの4指標がそろってプラスとなっている(図1)。

具体的には、(1)小売り段階の物価動向を示す消費者物価指数に加えて、(2)国内付加価値の単価を示すGDP(国内総生産)デフレーター、(3)国内付加価値あたりの労働コストを映す単位労働コストの3つが前年同期比プラスとなった。なお、(4)国内経済の需要と供給のバランスを示すGDPギャップは、需要超過を示すプラス幅が縮小したもののプラスは維持されている。こうしたこともあり、政府は物価が持続的に下落する環境ではなくなっているとしている。

ただ、2018年1~3月のGDPデフレーターは前年比ではプラスになったものの、前期比ではマイナスとなっており、低下トレンドが続いた格好となっている(図2)。背景には、原油価格など輸入価格の上昇で国内付加価値の単価が下がったこと等がある。したがって脱デフレ宣言には、原油価格の上昇にも耐えうる購買力を確保するためにも、賃金が持続的に物価上昇率を上回って上昇する、すなわち実質賃金がプラスを維持できるかがカギを握る。

実質賃金の増加率はマイナスに陥った可能性

そうした意味では、脱デフレ宣言に向けて最大の注目イベントが春闘であった。安倍政権は2018年度の税制改正大綱で、賃上げ3%以上と設備投資を行う大企業の法人税を軽減する一方で、賃金と設備投資の伸び率がいずれも不十分な大企業は、法人税の優遇措置を停止することを盛り込んだ。また、中小企業も賃上げをすれば税負担を軽減することも打ち出した。これまで賃上げに慎重スタンスだった各経済団体も、社会的要請として賃上げを推奨した。