理由はこれだけではない。資産価値の下落から発生した損失があまりにも大きかったために、企業はその損失を繰り延べて、その後の利益と相殺して課税される所得を減らしてきた。これが、景気が回復してもなかなか税収が回復しなかった理由である。しかし、企業が損失を繰り延べられる期間は最長7年(2011年12月の税制改正で9年に延長)であり、それ以降は利益に見合った税金を払うことになる。つまり、このような時価会計が導入されて以降の税収弾性値は、安定していた90年代前半までの値より高く見積もらなければならない。

増税しても税収が減る可能性

そこで、現実に近い税収弾性値を用いて基礎的財政収支を予測してみた。先に筆者が抽出した直近の税収弾性値のトレンドを用いて、政府の基礎的財政収支の予測を修正すると、経済再生ケース(名目GDP成長率3%)では、政府が2025年度に達成を見通している基礎的財政収支の黒字化は2020年度に達成できることになる。つまり政府が2025年までに達成できないと見通しているベースラインケース(名目GDP成長率1%)の基礎的財政収支の黒字化も、2024年度に達成できることになる。

これは、日本の財政赤字は経済動向に左右される要素が大きく、やみ雲に財政を緊縮すれば自動的に財政再建が達成されるとの見方が誤りであることを意味している。

財政再建計画を作成する際に、意図的に高い成長率や税収弾性値を前提とすることもできる。必要な歳出削減策や増税額を小さく見せかけることもできる。しかしこのような計画では、財政政策運営への国民や金融市場の信頼感を損なうことになろう。同時に、妥当な水準を明確に下回る税収弾性値を想定しても、今度は必要以上の歳出削減や増税を実施することが必要になる。

仮に、公共サービスを過度に削減して国民に負担を強いたら、国民生活は足を引っ張られることになろう。したがって、財政構造改革は、妥当な税収弾性値の議論を深めた上で進めるべきである。そうしないと2014年度の消費増税の二の舞を演じることになりかねない。