望ましいのはターゲット制
2015年度時点でも、基礎的財政収支は15兆円以上の赤字である。日本の財政は、将来的には赤字解消のために歳出削減や増税が必要であることは明らかである。しかし、景気が不況期にある中で増税をやりすぎると、税の大幅な自然減収につながりかねない。また、消費税率の引き上げが実際に経済に及ぼす影響は、引き上げの方法や実施する時の経済の状況によって異なる可能性もある。
1989年度に消費税3%が導入されたときには、バブル景気の真っただ中で好景気が続いていた。さらに、この時は消費税率の導入といった増税と同時に物品税廃止といった減税も実施された。このため、実質的な家計への負担増は小幅であった。89年度は消費税の導入により+3.3兆円の増収となった一方、物品税の廃止により税収が▲2.2兆円減少したため、最終的な家計の負担増加額は+1.1兆円程度にとどまった。消費税を導入しても消費の好調が持続し、経済全体に目立った悪影響は及ぼさなかった。
一方、1997年度には消費税率が+2%ポイント引き上げられた。この時はバブル崩壊後の停滞から景気が一時的に持ち直しつつある時期だった。これにより、消費税の税収は前年比で+3.2兆円増加した。さらに、同時期に特別減税の打ち切りにより+2兆円程度、年金・医療保険改革で+1.5兆円程度の増税が実施され、家計全体では合計で約+6.7兆円もの増税が実施された。
さらに消費税率引き上げ後には、アジア通貨危機や金融システム不安、年金不安の高まりなども重なった。このため消費者心理が急速に悪化し、消費の低迷により景気が大きく悪化した。この時期の経済状況は、消費税率引き上げ前から経済全体で見た需要が供給力を下回っていたため、消費税率引き上げの悪影響を支えることができず、より需要不足が深刻化してしまった。
このように、消費税の増税が景気に及ぼす影響は、導入時の景気や所得の状況によって大きく異なる。すなわち、橋本政権時の1997年には景気が底割れし、増税にもかかわらず財政構造改革自体が頓挫してしまった。つまり、消費税収は増えたが、それ以上に法人税や所得税が減ってしまったのである。
こうした経験は、日本経済が需要不足体質を脱し、経済の好循環メカニズムが強力に作用していない限り、増税のみでは財政再建は成り立たないことを意味する。したがって、政府には景気動向を慎重に判断し、景気拡大と財政再建を両立させることを期待したい。
特に消費税率の引き上げは、購入価格の上昇を通じて景気に悪影響を及ぼす。実際に行われなくても、そうした議論が盛り上がるだけで、個々の家計が将来の負担増に対する不安感を過度に高め、こうした不安は個人消費に悪影響を及ぼすことは、2014年4月の消費税率引き上げ後の状況からも実証済みである。もし、その結果として景気が低迷して税収が減少したら、いずれは財政再建の進展をも妨げる可能性もある。
他の増税も同じである。したがって、家計の負担増が個人消費や景気動向に大きな悪影響を及ぼすことのないように慎重に議論を進め、その結果、特定の時期を設定せずに、目標とする名目成長率や雇用者報酬の伸びが達成されたところで実施するのも一つの案だろう。具体的には、経済がこうなるまで増税しないというターゲットを示す方が国民の理解を得られ、スムーズに消費税率の引き上げが可能になるものと思われる。