夏は暑く、冬は寒く。景気の影響を考えると、そうなったほうが望ましい。しかし今年の夏は太陽が顔を見せる時間が、平年に比べずっと少なかった。こうした天候不順は3つの経路を通して個人消費を下押しするという。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストが、「冷夏」の景気への影響を解説する――。
過去の日照不足の経験
今夏は7月の猛暑から一転、8月は日照不足により、夏物商材の販売が不振となった。農作物の生育にも遅れが出ており、今後の景気への影響も拡大すると懸念する声も出ている。
2000年代以降で最も夏の平均気温が低くなったのは2003年であり、この年7~9月期の家計調査(総務省)における実質消費支出は前年比で▲1.4%の落ち込みを示した。さらに梅雨明け自体がはっきりしなかった1993年は39年ぶりの冷夏となり、夏物商材の売れ行きが落ち込んだ。また、大雨や日照不足もあり、稲作を中心に農作物に被害が出たことで、翌年にかけてコメ不足に陥った。
実際、93年の景気回復初期局面においては、年前半の経済指標が改善したことなどを根拠に、株価は3月以降堅調に推移していたが、6~7月と9月以降、株価は軟調に推移した。円高や冷夏に伴う経済指標の悪化が確認されはじめたことなどが影響している。このように、冷夏が株式市場に及ぼす影響にも十分注意が必要だろう。
3つの経路を通じて個人消費の下押し
夏の低温や日照の少なさといった天候不順は、主に以下の3経路を通じて個人消費の下押し要因として働く。
第一に、季節性の高い商品の売れ行きが落ち込み、いわゆる夏物商戦に悪影響を与える。具体的には、夏場に需要が盛り上がるビールやエアコン、夏物衣料などの売れ行きが鈍る。第二に、海水浴を始めとする行楽客の人出が減少する。このため、レジャー関連産業は打撃を受けることとなろう。第三に、農作物の生育を阻害し、冷害をもたらすことが想定される。農作物が不作となれば、農家世帯の所得減を通じて、個人消費にもマイナスの影響を及ぼす。