いまアメリカ国民は物価上昇に悲鳴を上げている

日本はここ20年ほどインフレでもひどいデフレでもなく、ごく緩やかなデフレでした。

「ごく緩やかでも、デフレはデフレじゃないか。国民にとってハッピーであるはずがない!」

なかにはそのように考える人がいるかもしれませんね。

しかし、デフレを悪しざまに言うのはアメリカの現状を見てからのほうがいいでしょう。

アメリカはインフレが続いています。CPI(消費者物価指数)でいうと、約20年間、年率2~3%前後で推移しています。デフレを敵視する人たちの目には、インフレが続くアメリカが好ましく写るでしょう。

しかし実態は逆です。

いまアメリカ国民は上がり続ける物価に悲鳴を上げているのです。

たとえば学費です。図を見てください。アメリカの学費は、この15年間で2.5倍になりました。いまハーバードなど名門大学の学費は、寮費を含めてだいたい6~7万ドル(660~770万円)です。これ、4年間の合計じゃありません。毎年約700万円ですよ!

学費が高くなっても、そのぶん賃金が上がっているなら問題はないのです。しかし、賃金は15年間で約1.3倍にしかなっていない。学費の上昇に、賃金がまったく追いついていないのです。

アメリカは奨学金制度が充実しているから大丈夫といいますが、返済不要の給付型奨学金を受け取れるのは成績優秀者だけ。実際には少なくない数の学生がローンを組んで大学や大学院に進学します。卒業したら返済しなくてはいけないのに、肝心の給料のほうは上がらない。これがアメリカの実態です。

英語にはこんな言い回しがあります。

「There are two certainties in life―death and taxes」
(人生で確実なものが2つある。死と税金だ)

まったくその通りです。人はいつか必ず死ぬし、経済活動をするかきり税金からは逃れられません。ただ、最近は応用形で、最後を「death and tuition」、つまり死と学費に替えたジョークをよく聞くようになりました。ジョークといっても笑えませんね。アメリカ人にとって上昇し続ける学費は、死や税金に匹敵するくらいに切実な悩みのタネになっているのです。