老親を在宅介護することになった。仕事に忙しい自分は介護の担い手になれない。兄弟姉妹も“口だけ”介護。そこで、消去法で妻(嫁)に世話をさせると、とんでもない悲劇が訪れたのだった。

「長男のオレが面倒を見るから」なぜ夫はカッコつけるのか

「私が担当した利用者さんなんですが、お姑さん(70代後半)の介護が原因で夫婦仲がこじれ、離婚してしまった方がいます」

と語り始めたのは女性ケアマネージャーのYさんです。聞けば、この利用者は50代半ばの夫婦で、共働き。育てた2人の子どもはすでに独立し、休日には一緒に旅行やゴルフに行くなど、とても仲がよかった。ところが、1年ほど前、姑が要介護2になったことで最悪の結末を迎えることになるのです(舅はすでに他界)。

「ご主人には2人の妹さんがいて、自分たち夫婦を含めた3家族はお姑さんが住む実家から、それぞれそう遠くないところに住んでいます。ご主人は妹さんたちとお母さんの介護について相談したんですが、格好をつけたのか『長男のオレが面倒を見るから』と言ったらしいんです。奥さんはその報告を受けた時、『勝手に決めないでよ』と憤ったらしいですが、すぐその後、義妹さんたちから電話があって『大変だったら言って。手伝うから』と言われたし、ご主人も『面倒を見る』と言った手前、介護を分担してくれると思い、やるしかない、と心に決めたそうです」(Yさん)

言うまでもありませんが、姑と嫁が良好な関係にあるケースはほとんどありません。むしろ折り合いが悪くて当たり前というのが世間の“相場”です。その奥さんもそうでした。そこへYさんが担当ケアマネージャーとして入ったわけです。Yさんは言います。

「私自身も嫁ですから姑に対する心理は理解できます。その私から見ても、奥さんは感情を抑え頑張っておられたと思います。利用する介護サービスもお姑さんの状態をよくすることを考えて選択されましたし、勤めもできるだけ早く終えて毎日実家を訪ね、お姑さんの食事を作ったりパジャマの洗濯をしたりしていた。ただ、越えられない一線はあって、排泄の介助はホームヘルパーさんに任せていました」

「お義母さんの介護を私ひとりにおっ被せている」

そんな介護が始まって半年くらいたった頃、Yさんは奥さんに愚痴られたそうです。

「主人が介護を全然手伝ってくれない。義妹たちも口では手伝うなんて言いながら、たまに連絡してくるだけで何もしない。お義母さんの介護を私ひとりにおっ被せている、と。その愚痴を聞いた時、不穏な空気を感じたのですが、案の定、ほどなくしてトラブルが起きました」

実は、姑はもともと外部の人間を家に入れるのが嫌で、嫁がホームヘルパーを入れことさえ気に入らなかった。介護の手抜きをしていると思い込んだそうです。また奥さんは仕事があるから日中のケアはデイサービスに頼らざるを得ないのですが、お姑さんは厄介払いされている、ととらえた。そのことを姑が携帯電話で娘たちに訴えると、事態はさらにこじれました。