一般的に「真面目」という言葉は、ほめるときに使う。実直でいい人のことだ。しかし、介護の世界においてそうした傾向は諸刃の剣となる。100%を目指すことはときに、害悪をもたらすのだ。

親を心から愛している。だから、親を殺す

介護によって精神的・肉体的、あるいは経済的に追い詰められ、要介護者である自分の親を殺すまでに至ってしまう――。『介護殺人 追いつめられた家族の告白』(新潮社刊)では、そうした事例について加害者の証言を交えて考察しています。プレジデントオンラインでは、3人のケアマネージャーに本書を読んでもらい、座談会を行いました。現在、介護の現場で働いている人たちは、こうした事例をどう読み、どう感じるのか。前回(http://president.jp/articles/-/21972)の続編です。

『介護殺人 追いつめられた家族の告白』毎日新聞大阪社会部取材班(著) 新潮社

『介護殺人』を、Iさん、Sさんなど複数のケアマネージャーに読んでもらいました。Sさんは、「自分の担当家族でも起こり得ることで重く受け止めた」と言いつつ、「心中、殺人にまで至らないで済む手だてはあるのではないか、とも感じました」と語りました。

「この本の事例に登場する人(加害者)には、ある共通項があると思いました。真面目で実直。そして要介護者である親や配偶者に人並み以上の愛情を持っていることです」(Sさん)

真面目で情に厚い「いい人」はかえって……

真面目で実直、情に厚いというのは褒め言葉。つまり「いい人」です。しかし、介護では「いい人」であることがアダになることがあるとSさんは言います。

「真面目で情がある人ほど介護が始まると、すべてを背負い込み、完璧にやり遂げようとしてしまう傾向があるんです。でも、現実には完璧な介護なんて不可能。だからこそ介護保険があり、我々のような介護サービスの専門家がいる。そうしたサポートも含めて、ひとりで背負い込まない。そしてベストではなくベターを目指す。介護は、そのくらいの気持ちでした方がいいのです」

また、Iさんは「真面目な人は、世間にあまり迷惑をかけたくないという意識が強いような気がします。だから、追い詰められてしまう」と言います。