心優しい人が、なぜ、老親に手をかけるのか?
『介護殺人 追いつめられた家族の告白』(新潮社刊)という本を読みました。
毎日新聞大阪社会部の記者たちが、介護の果てに肉親を手にかけてしまった人たちに会い、その告白から、どうして殺人に至ってしまったのかを探る内容。新聞のシリーズ企画「介護家族」に掲載された記事を書籍用に加筆・編集されたものです。
大変な労作です。
取材対象となる加害者たちは、ごく普通の人たち。いや普通以上に心優しく、要介護者である老親に深い愛情を注いで懸命にケアをしています。その一所懸命さゆえに追いつめられていき、限界を迎えて心中を試み、自分だけ生き残ってしまったケースがほとんどです。
登場人物は、言葉では言い表せないような自責の念、深い後悔に苛まれています。罪を償った後は多くが行方知れずとなり、身を隠すように生きている。記者たちは、その行方をなんとか探し出し、話を聞こうとします。
当然、断られます。
最愛の人を殺めた時のことなど、とても言葉にできるものではありません。それでも、心の内を語ってもらうことで介護の現実を知ってもらうきっかけになる、そこには難題を乗り越えるヒントが含まれ同じ過ちを犯す人を少なくすることができるかもしれない、という使命感に駆られた記者は、断られても断られても、彼らのもとを訪ねます。そして少しずつ心を通わせ、数人の重い口を開かせることに成功しています。
これほど困難な取材はありません。
傷ついた人の内面に踏み込むわけです。語られるのも極限に近い重い話であり、耐えられないほどの緊張感があったはずです。告白者は一部を除いて仮名ですが、そのようにつむぎ出された言葉は胸に迫るものがあります。
本書は介護に対する問題意識を喚起するという点で読む価値があるでしょう。殺人にまで至ってしまった極端な例ではありますが、普通に暮らしていた人が介護によって、ここまで追い込まれてしまうことがある。それを知ることで読者は各自そうならないための対処法を考えたり心の準備をしたりできるわけです。