要介護の老親を「殺す」人に共通するプロセス

ただ、一般の読者にとってそれは難題でもあります。それで、ふと介護の専門家はこの本の内容をどう受け止めるのだろうか、と思い、いつも介護現場のことを聞いているケアマネージャーのIさん、Sさん、Yさんに読んでもらうことにしました。

3人に集まってもらって話を聞いたところ、「一気に読みました」と声を揃えました。3人とも日々、多くの要介護者とその家族と接しており、悲劇的なことが起きないように注意を払って対応していますが、この本の告白事例には思い当たることも多く、改めて気を引き締めたそうです。

ただし、その一方でIさんは次のようなことも思ったといいます。

「私が担当しているご家族には、この本で告白されている方と同等、いやそれ以上の厳しい状況にある方がいます。介護の負担においても、経済状況においても。家族が抱える悩みはそれぞれですから、本の記述だけでは判断できませんが、同様の状況でも挫けることなく介護を続けている家族はたくさんいるんです。読んでいて、この人たちはなぜこの状況で心中を決断するところまで追い詰められてしまったんだろうとも思いました」

Sさんも、それにうなづき、こう語ります。

「この本で告白をしている人は、自分を大切にしていないような印象を持ちました。親御さんへの愛情からかもしれませんが、すべてを介護に捧げて肉体的にも精神的にもボロボロになってしまっている。でも、冷静に考えたらそれはおかしい。介護を続ける、つまり親御さんのことを思うなら介護するほうが健康でいなければなりません。倒れたり絶望したりしたら元も子もないんです。そのためには、時には手を抜くことも必要。自分を大切にすることが重要なんです」

この本の事例にはある共通点があります。

要介護者に付きっ切りでケアをしているため睡眠不足になり、それが原因で肉体や精神に変調をきたす。そして、付きっ切りの介護をするために仕事を辞め、経済的に困窮して追いつめられるというものです。

「ほとんどの介護者が経験するのが睡眠不足ですが、つらくなってきたら我々ケアマネに相談していただければ、睡眠を確保する方法を考えることも可能です。昼間だったらデイサービス、夜眠るためにはショートステイを利用することが考えられますし、認知症で夜中に大声を出して眠れないなら、受け入れてくれる病院を探す手もあります」(Iさん)

要介護者本人がそれらを嫌がることもありますが、自分を守るためには情に流されず、そうした決断も必要だといいます。