「息子や娘に迷惑かけたくない」消去法で嫁が介護を担う
在宅介護の主な介護の担い手は、家族構成や同居・別居などの条件によってさまざまですが、要介護者に男性の子どもがいる場合は、その嫁が主な介護者になることが少なくありません。
ただし、それとは矛盾する意識調査があります。内閣府が2012年に行った団塊世代を対象にした意識調査の中の「要介護時に希望する介護者」を見ると、最も多かったのは男女とも「配偶者」でした。
男性は54.7%、女性は26.6%。夫婦のどちらかが要介護になったら、連れ添った妻・夫に介護をしてもらいたい人が多いということでしょう。これは当然の意識でしょう。
配偶者の次に多かったのが「子ども(実子)」で、男性は5.4%、女性は13.9%。それに次ぐのが「本人の兄弟姉妹」(男性、女性とも1%)で、「子どもの配偶者、つまり嫁(娘婿のケースはほぼないはず)」に介護してもらいたい人は男性が0.1%、女性は0.7%でした。にもかかわらず、現状にはお嫁さんが介護を担うケースが多いわけです。
この矛盾はなぜ生じるのか。
Yさんは長年介護現場を見てきた経験から、こう読み解きます。
「男性がお嫁さんに介護をさせるのは申し訳ないという意識があるのだと思います。女性の場合は、『あんな嫁の世話にはなりたくない』と思う人も多いはずです。しかし、現実に要介護状態になると、仕事を持っている息子や娘に迷惑をかけたくないという考えが先に立ち、消去法で嫁が残るんです。この世代(70代後半)は自分自身が養父母の老後の面倒を見た人も少なくないですし、嫁というのはそういう立場だという意識も根強くありますから」(Yさん)
「お義父さんは、ポツリと“ありがとう”と言う」
そんなこんなで在宅介護の担い手は、お嫁さんになるケースが多いというわけです。
ただ、ケース・バイ・ケースですが、義父の介護ではお嫁さんはそうストレスを感じることは少ないといいます。
「お義父さんの場合は、ポツリと“ありがとう”と言ったりすることがある。そのひと言でお嫁さんの気持ちが和らぐというか、頑張る気になれるんです」(Yさん)
しかし、姑はただでさえ折り合いが悪いのに、介護となれば言葉や体の接触が密になるわけですから、お嫁さんのストレスは大変なものです。それが高じると、介護放棄や言葉の暴力、虐待に発展することもあるそうです。
そんな事態に陥らないためにはどうしたらいいのでしょうか。「嫁の務めだから、などと決して頑張りすぎないことです」とYさんは言います。
「担当のケアマネに事情を話し、うまく介護サービスを利用して自分の負担を軽くすることを考えた方がいいと思います。いい意味での手抜きですよね。情を込めて介護をしようとしても裏切られることが多い。どうせ嫌われているんだから、割り切るべきです」(Yさん)