私は『経理部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)を執筆するに際して、経費チェックをしている経理担当者と経費精算を請求する社員に数多く話を聞いてきた。そのなかで気になったのが、不適切な経理問題は子会社で起きていることが多かったことだ。

東京商工リサーチが行った2015年度「不適切な会計・経理を開示した上場企業」の調査内容においても、発生当事者別にみると、「子会社・関係会社」が26社(構成比44.8%)で、「会社」の20社、「従業員」の8社の中で最も多く、内容的には、利益捻出を目的とした不正経理、子会社従業員による架空取引や着服横領などである。

今回は取材を通して得た具体的な事例を紹介しながら、子会社に不適切な処理が多い理由とその防止法について検討してみたい。

経費使用の悪目立ちで諭旨免職になった出世頭

あるメーカーの経理担当者から聞いた話である。出世コースを走っていた営業系の社員が関連会社に出向した。「将来のために、外で経験を積め」という意味でもあったのだろうか。ところが、その1年半後には諭旨解雇になってしまった。行き過ぎた経費支出の責任を取らされたのだという。

出向といっても、2、3年もすれば本部に戻る予定だった。ただ本人には、本流から外れたかもしれないという思い込みがあり、焦りの気持ちもあったそうだ。そして短期間に営業成績を上げようと部下を追い込み、取引先を高級クラブでもてなすなど接待費用が大きく膨れ上がった。また公私混同と疑われる飲食やタクシーの利用なども目に余った。

おりしも本社では、本業部門が赤字に転落したこともあって、交際費の半減運動が始まり、過剰接待禁止の動きが強まっていた。そんな時期に、彼の行動は悪目立ちしたのだ。

現場(出向先)の経理担当者と彼との関係を聞くと、その女性の担当者にはいつも気を使い、出張のたびに彼女のいる経理課に土産を買って帰り、経理課員とも懇親と称してたびたび会食していた。営業部の部下に対する厳しい態度とは大きく違ったらしい。そのため、出向先の営業担当者が親会社の役員に、彼の経費の使い方や経理担当者との癒着を訴えたといううわさもあったそうだ。