誰もが認める実力を持ちながら、アウトローとして生きざるをえない。ノンフィクション作家の田崎健太さんが描いてきた人物の共通点である。
「不器用で、メディアにも迎合できず、孤立してしまう。でもそんな彼らが語る言葉には嘘がない。取材には時間がかかりますが、彼らの本音を通じて、時代を描きたい」
本書の主人公はプロレスラー・長州力。「新日本プロレス」を代表する選手だが、たびたび移籍騒ぎを起こし、「キレてないですよ」という発言がモノマネされるなど、トラブルメーカーという印象もある。だが取材現場に現れた本人は、居酒屋の片隅に足を揃えて礼儀正しく座った。そして何度会っても、朴訥で、慎ましく、自分を飾らない。次第に「長州力」と「吉田光雄」は違うことがわかった。
「彼は本質的にはアスリートなんです。プロレスはひとつの仕事として選んだだけで、乱暴で無愛想なキャラクターを演じている。本当の意味でのプロだと感じました」
田崎さんは彼の故郷を訪ねている。山口県生まれの在日韓国人二世で、専修大学レスリング部時代には「韓国代表」としてミュンヘン五輪に出場した。当時の関係者で「吉田光雄」というレスリング選手を嫌う人はいなかった。
プロレスとは虚実混交のエンターテインメントである。その世界をノンフィクションとして描くにはどうすればいいのか。本書では、誰が取材を受けて、誰が取材を拒否したかも記されている。その結果浮かび上がったのは、プロレスラーという仕事を全うしようとするひとりの男の生き様だった。田崎さんはいう。
「正直に生きているからこそ、誤解を与えてしまう。そんな人たちに惹かれるんです」
(小原孝博=撮影)