「星条旗」のメロディで「君が代」を歌い、「僕は68歳になります」と擬人化した「憲法くん」が語る――。政治色が強いゆえメディア露出こそ多くないが、ライブで根強い支持を集める芸人・松元ヒロ。チャップリンに感動して始めたパントマイムが芸の出発点で、最初から政治を風刺する芸風ではなかった。
「昭和の終盤、『歌舞音曲の自粛』によって仕事が全部キャンセルになったんです。『ご時勢ですから』の一言で片付けられるにはおかしいという不満が転じて、時事ネタを扱うコント集団『ザ・ニュースペーパー』を仲間たちと旗揚げしました」
集団から独立後も、一貫して権力者を揶揄し続けてきた。初の著書でも、安倍政権に抗議の声を上げる。
「最近、政治ネタがよくウケるんですよ。今の世の中、閉塞感がただよっていて、軍国化していきそうなこわばりがある。そこから解放してくれるのが笑い。お客さんが拍手して笑うことで、『もっと言ってくれ!』と要求するのを感じます」
そのように感情を共有したときの笑いは、同じ主張でも演説会以上のエネルギーが伝わってくるという。共著者である佐高信は、「笑いは図れないもの」ゆえ、「権力者は笑いが怖い」と指摘する。
また本書では強い影響を受けた芸人についても言及した。1人が著者の公演に招待されて、「思想のないお笑いは見たくない」と一蹴したマルセ太郎。当初その意味がわからなかったが、数々の舞台を経て、「自分の信念をはっきり定め、周囲の様子をうかがわず発言しないことには、観客の心の底から笑いを引き出せない」ことがわかってきた。もう1人が、立川談志だ。
「9.11の翌日、オサマ・ビン・ラディンのTシャツを着てスタジオに入って、周囲が凍りつく中、平然と『俺、何か悪いこと言った?』。お弟子さんには『全員が同じ方向を向いている状態は気持ち悪い。誰か1人こんなヤツがいたほうがいいんだ』と言っていたそうです。僕も談志師匠にならって、世の中と同じ方向に動かないように心がけています。ニュースも報道の側から一方的に見ないで、逆の立場だったらどう感じるか、考える。その発想からネタが生まれますしね」
反戦を掲げる著者は、今日も舞台という前線に立つ。笑いだけを武器に。