世界を潤さないアメリカの一極繁栄
前回(http://president.jp/articles/-/14549)、アメリカの政治学者イアン・ブレマー氏が公表した2015年の世界10大リスクの1位と2位について説明したが、今回は私が懸念している15年リスクを2つ取り上げたい。
一つは「アメリカの独り勝ちリスク」である。昨年11月にOECD(経済協力開発機構)が発表した世界経済見通しによれば、アメリカの成長率の14年見通しは2.2%、15年が3.1%。ユーロ圏の14年は0.8%、15年が1.1%。日本に至っては14年が0.4%、15年は0.8%。前年に引き続き、15年も先進国ではアメリカの独り勝ち傾向が見て取れる。
アメリカ経済は失業率5%台で雇用状況は良好、経済の約7割を占める個人消費も依然堅調だ。その背景にあるのは株高ドル高トレンドであり、原油安に住宅ローンの金利安などが消費を強力に押し上げている。
従来、大国の経済成長が世界経済の成長ドライバーになってきた。近年でいえば中国経済が世界経済をリードしてきたし、かつては借金してでもモノを買うアメリカの旺盛な購買意欲が世界経済を牽引した時期もある。
しかし、独り勝ちしている今のアメリカが世界経済を牽引しているかといえば、決してそうではない。たとえば日本車でいえば今や北米で年間400万台生産しているわけで、昔のようにアメリカにガンガン輸出して儲ける時代ではないのだ。
それどころかFRB(米連邦準備制度理事会)は、12年9月に開始した量的緩和第3弾(QE3・月額400億ドルの資産買い入れ)を14年10月に終了し、イエレンFRB議長は今年6月までの金利引き上げを示唆する発言をした。今どき金利を上げられる先進国はアメリカぐらいしかないので、高金利を求めて世界中からアメリカに金が流れ込んできている。するとドルはますます高くなるのに対して他国通貨は弱含みになり、インフレや景気減速の要因になりかねない。
アメリカに戻ってきた金も有効な投資先がないので、結局、投機マネーとして還流して世界の金融市場を荒らし回る恐れは多分に考えられる。
それからアメリカの景気がいいといっても、フォーチュン誌のトップ100企業を見ていると半分以上が海外でオペレーションして海外で利益を挙げている。そうしたグローバル企業は海外のタックスヘイブンを活用して節税しているので国内で払っている法人税の平均は10%以下だ。個人の富裕層にしても、オバマと大統領候補を争ったロムニーが270億円もの資産をタックスヘイブンのケイマン諸島などで運用して税金逃れしていても違法性はないということでお咎めなし。基本的にアメリカは金持ちの法人や個人からも税金が取れない国になっているのだ。
つまりアメリカが一極繁栄しても世界を潤すことはないし、政府の財政も潤わないから内政外交に金をバラまくこともできない。これまでにアメリカの独り勝ち状況は何度もあったが、それなりに世界も潤った。だが世界を潤さない、世界を駆動しないアメリカの一極繁栄というものが何をもたらすのか、EUや日本、あるいは新興国にどのような影響を与えるのか、まったくの未知数。それが世界にとって大きな不安定要因になるだろう。アメリカに吸い寄せられた資金が生み出すバブルが崩壊する過程で、世界はリーマン・ショックIIのとばっちりを受ける可能性にも注意しておかなくてはならない。