ギリシャ総選挙「反緊縮」野党が勝利した意味

主導国不在の世界秩序を「Gゼロ」と名付けたアメリカの政治学者イアン・ブレマー氏が率いるコンサルティング会社のユーラシア・グループが2015年版世界の10大リスクを公表した。

(1)欧州政治の弱体化リスク
(2)プーチン大統領が主導するロシアリスク
(3)中国経済の減速リスク
(4)アメリカが金融制裁を兵器化するリスク
(5)イスラム国の拡大リスク
(6)ブラジル、南アフリカ、ナイジェリア、トルコ、コロンビア……新興国の指導者の求心力が低下するリスク
(7)経済活動への戦略的な国家関与が強まって、経済の自由が制約されるリスク
(8)中東におけるイスラム教スンニ派とシーア派の対立の深化とサウジアラビアとイランの緊張リスク
(9)台湾の最大野党、民進党の台頭による中国と台湾の関係悪化リスク
(10)トルコ・エルドアン大統領の強権的な政治手法がもたらすリスク

この10大リスクの1位と2位について私の見解を交えて解説したい。

まず最上位のリスクに挙げられた「欧州政治の弱体化」。ヨーロッパ各国で反EUの政治的な動きが強まって、欧州の統合システムを弱体化させるというのがブレマー氏らの見立てだ。各国でEUに懐疑主義的な勢力が台頭してそれぞれの政権を揺さぶっている。

ギリシャのポピュリスト(急進左派連合のアレクシス・ツィプラス党首)。(写真=AP/AFLO)

年頭の注目を集めたのは、1月末に実施されたギリシャ総選挙だ。10年に国家財政が実質的に破綻したギリシャは、欧州中央銀行(ECB)の救済を受ける代わりに非常に厳しい緊縮財政を強いられている。そのため今回の総選挙では「節約経済とは決別して、(EUなどに対する)借金返済も打ち切る」と公言する40歳のツィプラス党首率いる急進左派連合が圧勝した。

今後考えられるシナリオは理性が感情に敗北、または妥協したものである。EUやユーロ圏は人間の理性が生み出したもので、その維持は容易ではない。日本でもそうだが、政治家たちがポピュリズムに走ると一時的には社会が不安定化する。ツィプラス新政権が本当に緊縮財政を放棄した場合には、ギリシャを助ける理由はないということで、EU、特に最大の負担を負わされるドイツは欧州単一通貨圏(19カ国)であるユーロゾーンからの離脱をギリシャに迫るものと思われる。

しかし、その場合にはEUからの離脱も避けられなくなるため、現在ギリシャが受けているEUからの交付金まで打ち切られることになる。EUの補助金漬けになってきたギリシャは結局、ユーロから追い出されるシナリオの怖さに気がついて緊縮財政を見かけ上維持するだろう。見かけ上とはいえ、EUからの援助を引き続き受けていく場合、左派政権は選挙公約を破ったという国内批判にさらされる。EU主要国がギリシャの「いいとこ取り」を許せば、EUの多くの国がポピュリズムに侵されることになり、延焼が食い止められなくなる。

ギリシャはユーロ建て国債を発行してEU諸国に買い取ってもらう形で借金をしているから、ユーロから離脱すれば当然借金は返せなくなる。

しかし、ただでさえ信用不安が拭えないギリシャがユーロ/EUを離脱すれば、国際金融市場で資金調達するのは非常に困難になる。仮に旧通貨のドラクマに戻して1ユーロ=1ドラクマのような図々しいレートで再出発しても、大変なインフレに見舞われてドラクマの価値は急落し、通貨切り下げを繰り返さざるをえないだろう。