ポピュリズムがEUを解体させる

最悪のシナリオは12年の欧州債務危機のように、ユーロ離脱後のギリシャが経済危機に見舞われて、それが他のEU諸国に燃え広がることだ。しかし、債務危機の延焼リスクはこの数年で相当軽減されている。ユーロ圏の財政支援を目的に10年に創設された欧州金融安定化基金(ESM)は約40兆円に積み上がっていて、ギリシャ発の信用不安の拡大は十分に食い止められる。つまり、いまでは財政危機の延焼よりもEUの基盤を揺るがすポピュリズムの蔓延のほうがEUにとっては「国体を揺るがす」より大きな危機なのだ。財政と違ってこちらは延焼防止のメカニズム確立が難しいからである。

特に財政が健全なEU主要国はギリシャの出方によってはユーロ/EUから切り離す実験をどこかの段階であえてやろうとするのではないか、と私は推察している。

緊縮財政を放棄したギリシャがなおユーロにとどまるとなれば、強い決意で緊縮財政に取り組んでいる他のユーロ諸国、ポルトガルやスペイン、イタリアなどに示しがつかず、気合も緩んでしまう。マーストリヒト条約に謳われたユーロの財政規律をクリアしているドイツ以下の北部EUは、ユーロから離脱したギリシャの窮乏を見せしめにして、財政規律を守らずヌクヌクとしている南欧ユーロ諸国の踏ん張りを引き出したいわけだ。

ドイツはユーロの劣等生であるギリシャを切り離すチャンスをうかがっていたくらいで、EUとしてはギリシャのユーロ離脱の備えはできている。ゆえに経済的な不安定要因にはならないと見るが、政治的な影響を測るのは難しい。

今年欧州で一番経済成長が見込まれているのはユーロに属していない英国で、英国を横目にしているユーロ諸国の中には、「ウチも脱ユーロでいくか」という国も出てきそうだ。実際、ユーロ導入を検討していたデンマークは現在のユーロ連動制を段階的により自由なクローネ部分を増やすことを検討している。ユーロ劣等生、優等生のそうした動きが欧州の脱EU、反EUの勢いを助長する可能性もある。