「僕の人生は『捨てる』と『得る』の連続だった」と語るのは、出口治明さん。なぜ捨てることが人生にとって大事なのかを聞いてみた。
出口治明 Haruaki Deguchi 立命館アジア太平洋大学(APU)前学長。1948年生まれ。京都大学を卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画(現ライフネット生命保険)を設立し、代表取締役社長。2018年よりAPU学長。『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など著書多数。
出口治明 Haruaki Deguchi
立命館アジア太平洋大学(APU)前学長。1948年生まれ。京都大学を卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画(現ライフネット生命保険)を設立し、代表取締役社長。2018年よりAPU学長。『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など著書多数。
Prologue 42歳で初めて「捨てる」決意を…小型トラック2台分の本を整理

失うものがあるから得られるものがある

人生もビジネスも、トレードオフの繰り返しです。何かを新しく得るためには、古い何かを捨てる必要がある。不要になったものは捨てる覚悟と、その方法を知ることが大切です。トレードオフとは、物事に優先順位をつける作業でもあるのですから。

僕の人生も、「捨てる」と「得る」の連続でした。日本生命に勤めていた頃は二階建ての社宅に住んでいましたが、大量の本とレコードが階段の踊り場にまで溢れていました。なんとかしなければと考えていた42歳のとき、ロンドンへ転勤を命じられました。

「これはいい機会だ」と考え、「本は所有するもの」という思い込みを捨てました。古本屋さんに引き取ってもらったら、小型トラック2台分。本は60万円、レコードは10万円になりました。

捨てる大切さを初めて感じたのは、あのときです。読み直したい本が出てくれば、また買うか、図書館で借りればいいのです。

キャリアにおいても、捨てると得るの繰り返しでした。58歳のとき、30年以上勤めた日本生命を退職して、ネットライフ企画(現ライフネット生命保険)を創業しました。70歳になった2018年には、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任しました。長く身を置いた生命保険業界から、まるで畑違いの教育業界へ転じたのです。

いまから5年前、72歳のときには脳出血を発症しました。療養とリハビリのために休職しましたが、1年後に校務に復帰しました。右半身に麻痺が残ったものの、絶望を感じたことはありません。以前の自分を100%とするなら、いまは80%。だけど仕方がないでしょう。これまでと同じ考え方で、この先は80%で生きていくだけです。

APUの東京オフィスは東京駅の近くにあるのですが、昼食はいつも一人で大丸デパートの地下まで、電動車椅子に乗って買いに行きます。今日は中華で、餃子と酢豚にしました。コンビニに寄って、オレンジジュースも買いました。

先日はイタリアへ、10日間の旅行に行きました。車椅子で移動すると視点が低いので、以前と違う景色が見えます。病気になっても、失うものばかりではない。得るものがあるのです。

Point1 捨てる前に「いつまでに」(時間)「どのくらい」(分量)を決める

腕時計を捨てたら視野が広がっていく

要らないモノを捨てたいのに、なかなか決心がつかない。これは、人間本来の性分です。「面倒だから来週にしよう」と引き延ばしたり、ひとつひとつ手に取って「これは思い出の品だから」「また使うかも」と逡巡したりしていたら、キリがありません。

そこでまず最初に、捨てるための心構えを考えます。