中国の「アヘン」と化した腐敗と汚職

もう一つ注視すべきは「中国の急激な崩壊リスク」だ。ブレマー氏は「中国経済の減速リスク」を3位に挙げていたが、世界経済への影響という意味では、中国経済がソフトランディングできるかどうかは極めて重要な問題だ。

私は、中国リスクには2つのシナリオを書いて備えておくべきだと思っている。一つのシナリオは、不動産バブルの崩壊とともに日本のバブル崩壊やアメリカのリーマン・ショックのような現象が起こって、経済成長が急激に鈍化してマイナスに転じたり、中国元が弱くなったりすること。要するに中国経済の減速というメーンシナリオである。もう一つは、急激な経済減速がトリガーになる恐れもあるが、習近平体制の厳しい締め付け路線が共産党政権の突然死につながるシナリオだ。

習近平政権は自らの権力集中と共産党の信頼回復のために反腐敗キャンペーンを大々的に展開して、党大物幹部が標的の「トラ狩り」、末端役人に対する「ハエ叩き」、さらには資産を海外に移して逃げ出した腐敗官僚(裸官)を摘発する「キツネ狩り」に血道を上げている。

しかし今の中国にとって腐敗・汚職は清朝末期の中国を蝕んだアヘンのようなものだ。腐敗の温床は中国経済の成長の原動力となってきた「土地マジック」である。共産中国では土地の私有は認められていない。すべて共産党のものであり、多くは農地として農民に貸与してきた。それを市政府が二束三文で取り上げて商業地に転用し、50倍、100倍の値段で民間デベロッパーにリースする土地転がしで潤沢な開発資金を生み出してきた。中国の各都市が税金にほとんど頼らずに、成長と発展を競ってこられたのはこの仕組みがあったからだ。

一方、転用した土地を50倍、100倍の値段でも借りる業者はその土地が100倍、200倍の将来価値を生み出すことを当然わかっている。そのマージンから許認可権や指名権のある役所の担当部長、課長から末端の事務員、工事業者に至るまで、便宜を図ってくれる関係者すべてにキックバックする仕掛けになっているのだ。この仕掛けで動く裏金はGDPとほぼ同額といわれていて、裏金を海外に不正蓄財している裸官だけで125万人いるという。

清貧な滅私奉公の印象を国民に与えるために、中国では公務員の給料は安く抑えられている。ただし、許認可権限は無限にある。そういう立場の人間が何をするかといえば、権限を活用して実入りを増やすに決まっている。恐らくは腐敗とは無縁の、清廉潔白な役人を探すほうが難しい。清朝を滅亡へと導いたアヘンのごとく、今の中国は腐敗菌があらゆる組織の隅々にまで染みわたっているのだ。