なにかを効果的に伝えるために、カリスマ性は必要ない。伝えるタイミングと聞き手のニーズを理解すれば、誰もが短く力強い言葉で、並はずれた効果を及ぼすことができる。コミュニケーション下手である、という自覚症状をお持ちのビジネスマン、あるいは、優れたコミュニケーターだと自負しているビジネスマンにも、以下の「コミュニケーション必勝法」を一読していただきたい。

人はどのようなとき聞く耳を持つか

[1] 重要な判断の基準が必要なとき

インテュイット社では、財務ソフトウエア・パッケージが唯一の製品であった時期がある。それはすなわち、出荷期限を守れなければ、会社の収益に壊滅的な影響を及ぼすということを意味した。スケジュールが間に合わなくなったとき、品質を落とすか納期を変更するか、どちらの方法によって遅れを取り戻すべきか社員には判断しかねていた。CEOのスコット・クック氏は、品質のほうが収益よりもはるかに重要であることを、社員に理解してもらいたいと考えた。クック社長は社員に対し、品質はきわめて重要であり、製品の出荷に時間がかかるのであれば、「数週間あるいは数カ月」遅らせることもやぶさかではない、と指示した。社員は直ちにそのメッセージを、彼らの判断の参考にした。メッセージがもっとも大きなインパクトを与えるのは、このようなときである。重要な判断について指針となるようなメッセージを送る場合、聞き手がもっとも必要としているタイミングを逃してはならない。一歩進んで、難しい判断をせざるをえないように仕向けて、耳を傾ける必要性をつくり出すことも、ときには重要だ。

[2] 話の内容が個人的利害に関係あるとき

あるハイテク企業の部長は、部下を前に、「6カ月後には、ここにいない社員もいるだろうが」、と前置きして財務報告を行った。このような会話の切り出し方は、適切だろうか? 確かに、聞いている人の注意は引いた。この部長の話によって、会社が財政的に厳しい時期に直面していることがわかると、社員は翌四半期の結果を改善させるべく奮起した。ただし、この種の脅しが功を奏するのは、一度だけである。再度試みることは、怒りを買うだけである。

[3] 説明責任を課せられたとき

先の部長は続けて、社員1人1人は、顧客関係をどのように管理するかを通じて、その結果をよくも悪くも変えることができる、という話をした。これはそうした能力と責任が1人1人の社員にある、ということを言ったのである。成功した場合の報酬や失敗した場合のペナルティーを明確にしていれば、説明・実施責任が加わるため、伝えたメッセージの及ぼす効果はまた一層大きくなっていただろう。

[4] 危機のとき

このことを如実に示したのは、2001年9月11日の悲劇的な出来事である。身の安全が危険にさらされていることを認識したとき、安全への脅威は、あらゆるコミュニケーションに勝る切り札となった。テロリストの行為に対するブッシュ大統領の国民に向けた演説に、あれほど広範囲な関心と肯定的な反応があったのも、このような理由による。

[5] 権力者が話すとき

人は、同僚の言葉より上司の言葉のほうを、真剣に受け止める。CEOの言葉は、彼自身の意図には関係なく、社員に及ぼす影響がもっとも大きい。それゆえ、もっとも重要なメッセージは、最高経営責任者の口から伝えるべきである。