リーダーの仕事をどのように定義しても、「コミュニケーション」という言葉抜きには語れない。危機においてはなおさら、広報を通じてではなく、リーダー自身の口から直接伝えられる言葉の重要性は高まる。

2001年9月11日、2機のアメリカン航空機が乗っ取られた。そのわずか2カ月後、同社の大型旅客機が離陸直後、ニューヨークのクイーンズで墜落した。

CEOのドナルド・J・カーティは、普段は控えめで脚光を浴びようとすることのない経営者である。しかしこのカーティが前面に出て、メディアからの質問に答え、生放送でのインタビューに出演することも辞さなかった。また、客室乗務員と地上乗務員に哀悼の意を伝えるべくニューヨークに足を運んだ。

カーティに対する批判がないわけではない。同社も同時多発テロ以降、何千人もの労働者を解雇したが、労組のリーダーや組合員たちは、雇用問題におけるコミュニケーションが足りないと感じている。これに対し、カーティは管理職に現場に出て、十分な情報開示をするよう指示した。

危機に際しては、誰もが内向的になりがちだ。しかし前述の例は、あえて外向的になることこそが危機のときには必要であることを示している。広報の陰に隠れてまやかしを続けるより、リーダーが表に出て、真実を語るほうが賢明である。経営者の考え方を社員や顧客に伝えるのは、広報またはマーケティング担当者だけの仕事ではない。コミュニケーションこそ、リーダーの仕事の中核なのだ。

「どんなに素晴らしい戦略も、全員の理解と信頼を得られなければ成功しない。それには、コミュニケーションが必要だ」と、フォード社のステークホルダー・コミュニケーションズ・ディレクターのチャック・スニアリーは言う。「実際、リーダーの義務をどのように定義しても、コミュニケーションは必ずその一部となる」。