愛知県名古屋市にある「元祖 鯱もなか本店」は、1907年(明治40年)創業の老舗和菓子店だ。コロナ禍に廃業寸前まで追い込まれたが、あることがきっかけで売り上げがV字回復を果たした。4代目店主の古田憲司さんが書いた『鯱もなかの逆襲』(ワン・パブリッシング)から一部を抜粋・再編集してお送りする――。
名古屋で100年以上も「鯱もなか」を売ってきたが…
僕と妻が4代目を務める「元祖 鯱もなか本店」は、1907年(明治40年)に妻の曾祖父(ひいおじいさん)である関山乙松が名古屋市の御園町(現在の御園通)に開いたお店です。
創業当時は「ますや菓子舗」という店名でした。それが、1921年(大正10年)に発売した「元祖鯱もなか(以下、鯱もなか)」が大ヒット。瞬く間に看板商品となり、ついには現在の店名になりました。
名古屋城の天守閣に鎮座する金のしゃちほこをモチーフにした特徴的なフォルムと、こだわり抜いた素材による味わい、店舗で作って提供する出来立ての味が受けたのだと思います。
117年以上の歴史を誇る元祖 鯱もなか本店ですが、3代目であり僕の義父である関山寛は、自分の代でこの店を閉じようと決意していました。最初から、子どもたち(妻と義兄)に店を継がせる気がまったくなかったのです。理由はハッキリしています。それは、店を経営することがどれほど大変なことか、先代自らが身をもって体験してきたから。
事実、家族として先代の様子を一番近くで見てきた妻も、「小さい頃から両親が働く姿を見ていたし、本当に苦労していたのを実感していたから、絶対に自分はやりたくないと思っていた」と話していました。元祖 鯱もなか本店は静かに廃業に向けて歩を進めていたのです。